北海道コンサドーレ札幌の西野奨太【写真:Getty Images】
明治安田J2・J3百年構想リーグ第6節が3月14日に行われ、北海道コンサドーレ札幌はジュビロ磐田に0-1で勝利し、今季初めて90分での勝利を手にした。試合終盤に劇的プロ初ゴールを挙げたのが、今季ゲームキャプテンを担うことが多い西野奨太。前キャプテン・高嶺朋樹という絶対的存在の穴を埋めるべく、クラブ生え抜きの21歳はチームと真正面から向き合っている。(取材・文:黒川広人)
「マジで全然覚えていなくて(苦笑)」西野奨太がプロ初ゴールを振り返る

プロ初ゴールを決めた北海道コンサドーレ札幌の西野奨太【写真:Getty Images】
「マジでホッとしています」
試合後のその言葉に、西野奨太の思いが凝縮されていた。
新体制となったチームは開幕5戦、90分での勝利がなかった。ジュビロ磐田との第6節も、決定機を幾度も作りながらポストやバーに阻まれ、ゴールを奪えないもどかしい展開が続いた。
迎えた後半アディショナルタイムの92分。センターバックの西野がペナルティエリアへ走り込み、髙尾瑠のクロスを押し込んだ。ネットが揺れた瞬間、北海道コンサドーレ札幌に関わるすべての人の感情が爆発した。サポーターも、ベンチのチーム関係者も、スタンドで戦況を見守っていたフロント陣も、ガッツポーズを繰り返していた。
西野にとってもプロキャリア初ゴールとなったが、当の本人はその瞬間をこう振り返る。
「マジで全然覚えていなくて(苦笑)。もう緊張しすぎて…。最後、触るだけのシュートが一番緊張するじゃないですか。本当に触ることだけ考えていたら、ワーってみんなが近づいてきて、『俺、決めたんだな』って」
そこから思い出せないほどの興奮状態に陥った西野は、ゴール裏に向かって雄叫びを上げ、そのままベンチにいた荒野拓馬の元へ笑顔で駆け寄った。
「『やっとお前が取ったな』と(笑)。練習のときから『まだ決めてないのか。初ゴールはまだか?』と話をしていたので。『やっと決めたか』と喜んでくれましたね」
2シーズン前には荒野も巻いた腕章。宮澤裕樹、荒野、高嶺朋樹と道産子の系譜が続く中、今季はアカデミー育ちの西野がキャプテンマークを巻くようになった。すると、チームへの向き合い方や結果に対する責任の感じ方も変わってきたという。
開幕からなかなか結果が伴わない日々で西野奨太を支えたもの

今季はゲームキャプテンを務めることが多い北海道コンサドーレ札幌の西野奨太【写真:Getty Images】
「ただ巻いているわけではないです。気持ち的にも『自分が勝たせなきゃ』という強い思いで戦っています。去年、うまくいかなかったときに感じていた気持ちよりもまた、一層、今の結果は自分の責任だと受け止めていました。
だからこそ、開幕からの結果にすごく責任を感じていましたし、応援してくださる皆さんに申し訳ない気持ちでした。自分自身、あまり良いプレーができていなかったので、毎試合毎試合、ものすごく落ち込みましたね」
そんな中、キャプテンの重圧を知る先輩たちの言葉は、西野を支えていた。キャプテン経験が豊富な堀米悠斗も、その一人だ。
「キャプテンマークを巻いて、チームの結果がついて来ないと、『キャプテンの自分が悪いんじゃないか?』と思ってしまうことは自分自身も経験としてありました。でも、奨太はずっと、やるべきことをやっていました。『今、奨太が取り組んでいることは間違いないよと。俺らもしっかりと支えるから前を向こう』という話はしていましたね」
西野もその言葉をしっかりと受け止めていた。
「ゴメスくん(堀米悠斗)や(宮澤)裕樹さんとか、経験のある選手たちが声を掛け続けてくれたので、踏ん張ることができました。『下を向くな』、『前を向き続ければ絶対結果は付いてくる。大丈夫だ』と言ってもらっていました。ちょっと気負いすぎていた部分もあったと思います。ずっとムズムズしていたのが、今日の勝利で少し晴れたかなと思います」
立場が人を作ることもある。この苦しみの経験は、西野の成長速度をさらに早めるはずだ。
「今年、ゲームキャプテンになって、プレーの部分もそうですし、チームの雰囲気のところもすごく感じるようになりました。試合前や試合中の雰囲気作りもすごく意識するようになりました。それを感じるようにと自分自身、努力しています。サッカーに対して、もう一歩、深く。今年は踏み込めて向き合えているのかなと思います」
若い頃から世代別代表で戦ってきた西野には、関わりのある人物も多い。余談だが、この日のミックスゾーンで取材をしていると、磐田のGKコーチを務める川口能活氏が西野の元へ歩み寄り、「ナイスプレー。名前は川口ですよ!(笑)」と笑顔で声をかけていた。世代別代表でコーチと選手として共に戦った、日本のレジェンドだ。
このやり取りの裏には、西野の “やらかし”があったという。
「これを最低限にしていきたい」。個人としてもチームとしても大きな1勝を胸に21歳は前に進む

西野奨太は、自身のプロ初ゴールで劇的勝利を収め、喜びを爆発させた【写真:Getty Images】
「川口さんに話しかけてもらったんですが、咄嗟に名前が出てこなくて…。『すみません!代表で一緒にやったと思うんですけど、お名前、聞いてもいいですか?』と言ってしまいまして。マジでやらかしましたね。あとで謝罪の連絡をします」
西野の成長を喜んでいる人は、これまで関わってきた人の中にも多いはずだ。そして、この試合では、5人もの札幌アカデミー出身の選手がスタメンに名を連ねた。かつて、自分が憧れていた立場から、今は憧れを与える立場にもなっている。
「今日は、川原(颯斗)が初スタメンでしたし、(木戸)柊摩がいて、俺がいて、(荒野)拓馬くんがいて、ゴメスくん(堀米悠斗)がいて。今ユースにいる育成年代の子たちにとっても、ユース出身の選手が出て勝つというのは良い刺激になると思うので。そういった意味でも勝てて良かったです」
とはいえ、チームにはまだ改善点も多い。それでも、西野は新体制のチームの伸び代を信じている。
「進んでいる方向は間違ってないと思います。ただ、綺麗なサッカーだけでは勝てないです。その中で今年初めて、みんなが一つの方向を向いて気持ちでぶつかれた試合だと思います。
これを最低限にしていきたいです。ここで一つ勝てたことで自分の中でもチームとしても自信もつきました。この勝利は本当に大きいです。そして、次の(ヴァンフォーレ)甲府戦が本当に大事です。けど、今日だけは初ゴールに浸りたいですね(笑)」
21歳は一歩ずつ、数多の成長材料を胸に刻みながら歩みを進めている。
(取材・文:黒川広人)
【著者プロフィール:黒川広人】
北海道出身。大学卒業後、フジテレビで番組制作を担当。2018年よりDAZNにてJリーグ関連の番組制作に携わる。2022年からは株式会社dscに所属し、Jリーグ、Jクラブ、WEリーグをはじめとする各種スポーツ団体の映像ディレクション業務を担当。また、地元・北海道を中心に学生年代の取材活動も精力的に行う。
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