
FC東京戦に勝利した東京ヴェルディ【写真:Getty Images】
東京ヴェルディの指揮官に就任して5年目を迎える城福浩監督。明治安田J1リーグ百年構想リーグ第8節FC東京との東京ダービーを制するも、試合後笑顔を見せず、「危機感」という単語を並べた。城福監督が放ったその言葉の意味とは。(取材・文:白谷遼)
歴史的な勝利に満足しなかった理由

歴史的勝利に満足しなかった城福監督【写真:Getty Images】
「我々は誰かが外から来て何かをお願いするようなチームじゃない。成長させるという意味では、僕は危機感を感じています」
PK戦の末に,、18年ぶりに宿敵を下した歴史的な試合後、会見場に現れた城福浩監督の口から飛び出したのは、勝利の余韻を打ち消すような意外な一言だった。
東京ヴェルディにとって、J1復帰後初の東京ダービー勝利。そして自身にとっても前人未到の「両クラブでの東京ダービー勝利」という快挙を成し遂げた直後だというのに、指揮官の表情に歓喜の色は微塵もなかった。
常に課題に目を向けるそのストイックな姿勢は、今に始まったことではない。
ダービーでの劇的な勝利も、城福監督にとっては積み上げてきたプロセスに過ぎないのだ。
城福監督は「成長」をキーワードに、明治安田J1リーグ百年構想リーグを「中長期的にチームをどう底上げしていくかを妥協なくやる期間」と位置づけ、今季のチームを始動させた。
「妥協なき底上げ」の一環として指揮官が真っ先に取り組んだのが、徹底した走力強化だ。
キャンプ以降も通常のトレーニングに加え、走り込みを継続。試合中、息が上がった状態でのプレー・判断の質を向上するために、練習時間には昨季の1.5倍以上を割いている。
この過酷なまでの土台作りは、百年構想リーグが開幕してすぐに結果として現れた。
出場機会に苦しむ選手は「負けていられない。逆に鼓舞される」

鹿島アントラーズ戦でスタメン出場したFW白井亮丞【写真:Getty Images】
開幕戦で水戸ホーリーホックに3-1で勝利したヴェルディは、第2節の柏レイソル戦で、後半の選手交代から一気にギアを上げて逆転勝利。続く第3節のFC町田ゼルビア戦でも後半に2点差を追いつき、PK戦の末に激戦を制した。
立ち上がりから全員でアグレッシブにボールを奪いに行き、後半にゲームチェンジャーたちにバトンを渡す。
交代した選手たちがさらに強度を引き上げて勝負に出る戦い方は、まさにキャンプから積み上げてきた「走力強化」の賜物だった。
昨季は得点力不足に悩んだヴェルディだが、選手たちは一試合においてのプレー・判断の精度や速度が着実に上がってきている手応えを実感している。
その中で、出場時間に悩まされているFW白井亮丞は「スタメンで出ている人たちがあれだけやっているので、負けていられない。逆に鼓舞される」と口にした。
ピッチに立つ選手たちの献身性が、ポジション奪取に燃える選手たちの競争心に火をつけ、チーム全体の「成長」を加速させる格好の刺激となっている。
主力選手の負傷を「成長するチャンス」に

FC東京戦で活躍したGK長沢祐弥【写真:Getty Images】
開幕3連勝と最高のスタートダッシュを切ったヴェルディだったが、柏戦でMF福田湧矢が負傷して再離脱。町田戦でDF林尚輝、MF松橋優安が、鹿島戦でGKマテウスが戦列を離れた。
チームは第4節横浜F・マリノス、第5節鹿島アントラーズ戦で敗戦。負傷者の続出は、少なからず連敗の一因となった。
だが、指揮官はこれを言い訳にせず。むしろチームの危機的状況を、成長の好機と捉えていた。
「ケガ人が出ている中で、『苦しい台所事情』と言うのか、『成長するチャンス』と捉えるかという意味では、我々は後者。今こそ我々のあるべき姿を見せるとき。僕は楽しみにしています」
城福監督は、序盤の大一番でもあった横浜FM戦、鹿島戦で白井、MF仲山獅恩ら若手を積極的に起用。
指揮官は、鹿島戦で前半のみのプレーとなった2人の選手に対して厳しい結果の中にも、若手がトップレベルの壁を肌で感じることで得られる成長を確信していた。
「日本のトップレベルのハイインテンシティの中で、我々らしくやることがどういうことなのか。自分の距離感をこの45分でつかんでくれたのであれば、意味はあったと思います」
また鹿島戦以降、ヴェルディのゴールマウスを守るGK長沢祐弥の台頭は、さらなるチームの底上げを加速させる新たな希望として期待を抱かせる。
マテウスの負傷という緊急事態で巡ってきた出番だったが、今やその安定感は欠かせないものとなっている。
城福監督が「彼は、喜怒哀楽があまり出ない落ち着いた感じ。マテウスとはまた違う良さ」と評価する長沢は、FC東京とのダービーではPK戦で二度のPKストップを披露。ヴェルディの約18年ぶりの東京ダービー勝利に貢献した。
しかし、城福監督は試合後、「危機感」という言葉を繰り返した。