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コラム 4時間前

こうして史上最強のサッカー日本代表は生まれた。内部で図られた方向転換、混乱を乗り越え強調された優先順位【連載:北中米W杯への道3】

ペルー代表戦でのサッカー日本代表MF三笘薫
ペルー代表戦でのサッカー日本代表MF三笘薫【写真:Getty Images】



 この連載では、サッカー日本代表を現地で取材し続けるスポーツライターのミムラユウスケが、FIFAワールドカップ26(北中米W杯)までの3年半に及ぶ日本代表の挑戦と苦悩を描き出す。3月に攻撃の機能不全という課題を残した日本代表は、後に「史上最強」と称されるチームの礎を作っていく。(取材・文:ミムラユウスケ)[1/2ページ]
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3月シリーズの反省。新たな戦術と新たな選手の融合


サッカー日本代表・森保一監督【写真:田中伸弥】

 6月シリーズには3つの側面があった。

 1つが、3月シリーズの反省だ。

 待ちに待った再スタートの場だったはずが、攻撃は停滞。最大の原因は、新たに導入した「偽サイドバック」――マイボール時にサイドバックが内側へ絞り込む動き――が、手段であるはずなのに、いつの間にか目的化してしまった点にある。

 森保一監督はこれまで、攻守の細かなルールを極力設けず、選手の判断と創造性に委ねるスタイルを貫いてきた。W杯でベスト16を果たしたチームの強みでもあったその柔軟さが、逆に仇となった。


 突然の新戦術投入に対し、選手たちは「SBが内側に入る」という指示を過度に優先。縦への推進力やゴールへの最短ルートを意識するはずが、ボール保持そのものが目的となって横パスが続き、コンビネーションは乱れ、シュート数は極端に少なくなった。

 森保監督自身も試合後、「新たな戦術的なチャレンジと新しい選手の融合が簡単ではない」と認め、「縦に速く、素早くゴールに向かう優先順位を共有できていなかった」と反省を口にした。

 手段が目的にすり替わり、選手間の共通認識が揺らいだ典型例だった。

劇的な変貌。選手に繰り返し強調した優先順位

日本代表に選出された菅原由勢
菅原由勢【写真:Getty Images】

 致命的だったのは、森保体制の親善試合で見られるような、選手が特長を発揮するシーンが、ほぼなかったところだ。

 相手の分析を入念に行う公式戦と異なり、親善試合では、お互いのチームがお互いにテーマを持って戦う。その結果、良いところを出し合う展開になりがちだ。そういうとき、森保監督の率いるチームは良さを出しやすい。それが出なかったところに大きな問題があった。

 しかし、わずか3カ月後の6月、エルサルバドル戦(6-0)とペルー戦(4-1)のキリンチャレンジカップで、チームは劇的な変貌を遂げた。

 森保監督は3月の教訓を明確に活かし、方向転換を図った。最大の変化は、「偽サイドバックはあくまでオプションの一つに過ぎない」という位置づけを徹底したことだ。

 事前のミーティングと練習で繰り返し強調されたのは、「優先順位の一番上は縦に速く、素早くゴールに向かうこと」。


 ボールを持った瞬間に縦パスやドリブルで前進を狙い、それが難しい場合に初めて保持やビルドアップに切り替える――この順序を選手全員が共有した。

 SBがインサイドに入るという動きは「常にやらなければならない」ものから、「状況に応じて有効に使う手段」へと戻された。

 エルサルバドル戦は試合開始早々に退場者が出たとはいえ、2試合合計10得点(失点わずか1)。三笘薫や伊東純也の両翼が縦に鋭く突破し、カウンターの切れ味が増し、セットプレーや個人技による得点パターンが復活した。

 菅原由勢をはじめとした、カタールW杯後に合流してきた選手たちも、「相手の状況を見ながら、いつ、どのタイミングで内側に入るのが効果的か」を常に意識。3月のような迷いは消え、判断の質が格段に向上した。

こうして「史上最強」のサッカー日本代表は生まれた

キリンチャレンジカップ2023、ペルー代表戦に出場した三笘薫
サッカー日本代表MF三笘薫【写真:田中伸弥】

 森保監督は6月の振り返りで、「3月の活動からチームとしていろいろな課題が出た中、どのように修正してチームとして戦うかということを、選手やスタッフ一人ずつが何ができるかということを考えて、チームとして課題に取り組み、やるべきコンセプトの部分を共有して戦えた」と語っている。

 手段を目的化せず、目的(ゴールに迫る)を最優先に据え直したことで、チームは混乱から脱却。より柔軟で効果的な攻撃を実現したのだ。

 この修正こそが、エルサルバドル戦から、2024年1月のAFCアジアカップ初戦ベトナム戦まで、10連勝を飾る起爆剤となった。そのなかには9月のドイツ戦・トルコ戦も含まれている。

 また、その副産物として顕著に現れたのが、ミドルゾーンでコンパクトなブロックを形成し、ボールを奪ってから一気に縦へ速く攻撃に移る形がはまったことである。

 この戦い方が機能した最大の要因は、ペルー戦で揃った鎌田大地、古橋亨梧、三笘薫の存在にあったのではないだろう。


 三笘は、守備時に見せたサッカーIQの高さでチームに貢献した。

 ペルーはビルドアップ時に3バック化してくることが多かったのだが、ボールが逆サイドにある局面で相手サイドバックとウイングバックの間に絶妙なポジショニングを取っていた。これにより、日本はボールサイドへの守備に思い切ってプレッシャーをかけられるようになり、相手のビルドアップを早期に潰すことが可能となった。結果、奪った瞬間のカウンターが鋭さを増し、攻撃の質が飛躍的に向上した。

 そして、ボールを持つと一瞬で相手ディフェンスラインの裏へ抜け出すのが最大の武器である古橋と、そうした特長を持つ選手を最大限に活かす能力が最も長けている鎌田が揃っていたことで、この形は完璧に機能した。鎌田の視野の広さと正確なスルーパス、古橋の抜け出しのタイミングが噛み合い、三笘や伊東純也のドリブル突破が加わることで、縦へのスピードが爆発的に高まったのだ。

 攻撃の多様性と守備の連動が融合し、森保ジャパンはまさに「史上最強」の呼び声にふさわしい勢いを見せつけた。この10連勝は、3月の混乱を乗り越え、手段と目的を明確に整理したチームの進化を象徴する数字だった。

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