インテルのスクデット獲得は、“当然の結果”ではなかった。シモーネ・インザーギ退任後、クラブが新たに託したのは、トップリーグでわずか13試合しか指揮経験のないクリスティアン・キヴだったからだ。大型補強もなく、主力の離脱にも苦しみながら、なぜインテルは再び頂点へたどり着けたのか。その背景には、指揮官の静かな変化があった。(文:佐藤徳和)[1/2ページ]
インテルがセリエA制覇
3日、ケヴィン・ボナチーナ主審のホイッスルがスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァの夜に鳴り響くと、インテルがパルマ・カルチョに2-0で勝利し祝祭が始まった。
7万5000人の大観衆によって、“Siamo noi, siamo noi, campioni d’Italia siamo noi!(俺たちだ、俺たちだ、イタリア王者は俺たちだ!)”の大合唱が巻き起こり、ピッチでは選手とスタッフによる歓喜の輪が広がった。
インテルが21度目のリーグ制覇を達成。2シーズンぶりのセリエA優勝となった。
だが、信じがたいことに、本拠地でリーグ制覇を決めるのは1989年5月28日以来であった。
実に37年ぶりとなる“自分たちの家”での優勝とあって、喜びもひとしおだ。
26/27シーズンのユニフォームには、2つのステッラ(10度の優勝ごとにつけることができる金色の星)に加え、初めてスクデットがつくことになる。
昨夏、4シーズンにわたってチームを率い、23/24シーズンのセリエA制覇と2度のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出に導いたシモーネ・インザーギ監督が退任。クラブは分水嶺に立たされていた。
後任に迎えたのは、クリスティアン・キヴだ。
現役時代には7シーズン、インテルでプレーし、2018年からはクラブ下部組織で指導者としてのキャリアをスタート。U-14の指揮官から歩みを始め、21/22シーズンにはカンピオナート・プリマヴェーラ制覇を成し遂げている。
キヴ就任の経緯。セスクの噂もあったが…
その育成手腕が評価され、2025年2月18日には、3連敗を喫してセリエA18位に沈んでいたパルマ・カルチョで、ファビオ・ペッキア監督の後任としてトップチーム監督に大抜擢された。
すると、残り13試合を3勝7分け3敗で乗り切り、チームを16位へ導くことに成功。クラブ最大の目標だったセリエA残留を果たした。
パルマ・カルチョとの契約は2026年6月30日まで残っていたこともあり、さらに1シーズン、ジャッロブルー(黄色と青)のチームを率いると見られていた。
しかし、インザーギ監督の退任によって状況は一変。キヴはインテル新監督候補に浮上した。
当初、インテルの第一候補と報じられていたのは、コモ1907を率いるセスク・ファブレガスだった。
この件については、インテル会長のジュゼッペ・マロッタが4日、イタリア・メディア『Rai Radio』の『Radio Sport Anch’io』に出演した際、接触があったことを事実だと認めている。
「経緯については正確にしておきたい。私はファブレガスを非常に高く評価しているし、とても有能だと思っているが、会ったのはあくまで初期段階の接触だけだった。企業でゼネラルマネージャーを採用しなければならない時には協議を行うものだ。
ただ、我々は接触はしたものの、それ以上に進むことは一度もなかった。その後、相手側に客観的な障害があったため、我々はキヴを選んだ。我々の選択がキヴに落ち着いたのは、彼が我々の求めていたプロフィールを体現しており、ここ数シーズンのインテルの基準に適していたからだ」
こうして、インテルは、セリエAで“13試合”しか指導歴がない監督にチームの舵取りを託すこととなった。
しかも、2025年夏のカルチョ・メルカートは、低調な補強に終わった。
補強額は最低限…それでもチームは突き進んだ
セリエAトップの1億6400万ユーロ(約305億円)もの補強費を投じた宿敵のミランに対し、インテルのそれは9270万ユーロ(約171.5億円)。ユヴェントス、アタランタ、SSCナポリ、コモ1907を下回る6番目の補強総額だった。
最も高額な選手は、パルマ・カルチョから獲得したアンジェ=ヨアン・ボニー。2300万ユーロ(約42.6億円)を費やしての補強であったが、ビッグ・ディールではなかった。
25/26シーズン、セリエA初戦のトリノFC戦には5-0と大勝を収めるが、第2戦のウディネーゼ・カルチョ戦には、本拠地で1-2の不覚を取る。
さらに、ユヴェントスとの第3戦、イタリア・ダービーでは3-4で競り負け、連敗を喫した。
しかし、ここから次第に調子を上げ、第15節にトップに立ってからは、一度も首位の座を明け渡すことなく、優勝まで突き進んだ。
古巣パルマ・カルチョ戦後、クルヴァから名前を連呼され、拍手喝采を受けたキヴは、試合後の公式会見では多くを語らず、アレクサンダル・コラロフ助監督をはじめとした、スタッフに発言の場を譲った。
自らの優勝を「一本のタバコ」で祝福したというキヴは、イタリア・メディア『DAZN』のインタビューに答えた。
女性インタビュアーのフェデリカ・ジッレから、「選手としても監督としてもインテルでスクデットを獲得し、クラブ史に名を刻みましたね」と振られると、キヴは笑みを浮かべてこう返した。
「その前から、僕はそこにいたと思うけどね。でも、このチームと、この素晴らしいファンのために嬉しいよ」
インテルのレジェンド、ベッペ・ベルゴミは、『Radio Sport Anch’io』に出演し、キヴをこう評している。
