
百年構想リーグに初出場したジェフユナイテッド千葉の田口泰士【写真:Getty Images】
イビチャ・オシム元監督の命日に戦線に復帰した田口泰士。実に約6年5カ月ぶりのJ1のピッチだった。そんな経験豊富なMFはFC町田ゼルビア戦の後だけでなく、全体練習後に合流した日にも取材に応じており、試合後の田口は以前とは全く違う顔をしていた。敗戦後に語られた副キャプテンの想いとは。(取材・文:菊地正典)[1/2ページ]
明治安田J1百年構想リーグ・地域ラウンド第16節
ジェフユナイテッド千葉 0-2 FC町田ゼルビア
フクダ電子アリーナ
フクダ電子アリーナに副キャプテンが帰還

ジェフユナイテッド千葉で副キャプテンを務める田口泰士【写真:Getty Images】
フクダ電子アリーナのピッチに副キャプテンが帰ってきた。
5月10日に行われたJ1百年構想リーグ第16節、FC町田ゼルビア戦。
この日は5月1日以降、初めてのホームゲームということもあり、ジェフユナイテッド千葉のファン・サポーターが集うゴール裏には、その日が命日であるイビチャ・オシム元監督へのメッセージ、「イビチャオシム 私達の心に生き続ける。永遠に」と日本語、ボスニア語で書かれた横断幕が掲示されていた。
試合前のウォーミングアップ中、その間にもう一つの横断幕が掲げられる。
「田口泰士とこれからも共に」
シーズンオフに、左反復性肩関節脱臼の手術を行っていた田口にとって、町田戦が今季初めてメンバーに入った試合となった。
そして、ジュビロ磐田でプレーしていた2019年11月30日の名古屋グランパス戦以来、約6年5カ月ぶりのJ1の舞台でもあった。
あの横断幕を見ましたか? 試合後にそう問われた田口が答える。
「見ましたよ。うれしかったですね」
言葉とは裏腹に、笑顔はない。田口は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
メディアに見せた2つの顔

2025シーズンの田口泰士【写真:Getty Images】
遡ること1カ月ほど前。田口はジェフのクラブハウス兼トレーニング施設であるユナイテッドパークのピッチで田口が見せていたのは、はち切れんばかりの笑顔だった。
その日、田口は手術後初めてチームの全体練習に部分合流。対人プレーを要しない軽めのメニューに限定しながら、楽しそうに仲間たちとボールを蹴る。
兄貴的存在の合流に周囲の雰囲気も明るくなっていた。
練習後、選手の取材の準備をしていると、遠くから大きな声が聞こえた。
「菊地さん、今日は俺でしょ!」
声の先を見ると、田口がニヤニヤしている。どうやらその前に顔見知りの記者にも同じような声をかけていたようだ。
チームの兄貴分ながら言葉で語るタイプではない田口は、メディアの前で話すのもあまり好きではない。
だから田口からそんな声をかけられたことに驚き、同時に冗談だと理解しながらも、言われるまでもなく聞こうとした言葉を投げかけた。
「全体練習に合流した感想は?」
すると田口は、それまでの笑顔をスッと消して真顔で答える。
「いや、特に話すことはないです」
自分から振っておいてそんなことある?と思いながらも、率先して報道陣とそんなやり取りをしている。
さらに真顔から再び破顔して「じゃあねー」と言いながら去っていく田口の様子からは、チームメイトとともにプレーできる喜びが十分過ぎるほどに伝わってきた。
それから2週間ほどチームが、ゲーム形式のトレーニングを行う際には左肩の強化に努めてから完全合流。さらに20日ほどを経て町田戦を迎えていた。
だが、試合後に報道陣の前に姿を見せた田口の様子は、あの日の練習後とはまるで正反対だった。
ミスが目立った田口泰士「プレーを見たら…」

FC町田ゼルビア戦でミスが多かった田口泰士【写真:Getty Images】
今日で完全復活ということでいいのか?
「プレーを見たら完全ではないと思います」
ケガの影響がもうないからピッチに立ったということでは?
「試合に出たら誰も言い訳なしですし、みんなどこかしら痛かったりもするので、ピッチに入ったら関係ないと思います」
まるで吐き捨てるように言葉を発していく。復帰したというのに、今季初出場かつ6年半ぶりのJ1の舞台だというのに、感慨というにはほど遠かった。
致し方がない。チームは勝てなかった。3シーズン前までJ2で戦っていた相手に対し、完敗と言っていい敗戦を喫した。
自身は2点ビハインドの74分、同じく戦列を離れた状態で今季の開幕を迎えた田中和樹、杉山直宏とともにピッチに入ったが、流れを変えることができなかった。
そればかりか、この日の田口はミスが多かった。
とにかくパスが味方に渡らない。シンプルな横パスが10mほど間を空けたサイドハーフとサイドバックのちょうど真ん中を通ってタッチラインを割ることもあった。
パスの狙いどころ自体は「さすがよく見えている」と感じさせたが、技術に長けた田口らしからぬミスが続いた。
「流れを変えなければいけなかったのに断ち切っていた僕自身のプレーがいくつもありました。体力的にきつくてミスしているとかじゃなくて、シンプルにパスがズレたりしていた。
一つひとつの部分でチームが勝つか負けるかは変わってくるので、反省してまたやっていきます」
長期離脱から復帰し、練習と試合はまったく別物であると痛感した。
戦列から離れる間も、J1の舞台で奮闘する仲間たちを見ながら、自身がピッチに立ったときにどうすべきかイメージしていた。
それを練習で実践しているつもりだった。それなのに、公式戦ではまるでイメージどおりにはいかなかった。
ただ、プレー面ではいい影響を与えるには至らなかったものの、チームの中心である田口の復帰自体に好影響はあった。