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ガンバ大阪、松崎裕が通訳者として貫く信念。ヴィッシング監督の“考え方”を消さないための意識とは?【ACL2優勝記念/スタッフ戦記第1回】

シリーズ:ガンバ大阪 スタッフ戦記 text by 高村美砂 photo by Getty Images,Misa Takamura

ガンバ大阪の松崎裕
ガンバ大阪で監督通訳を務める松崎裕【写真:高村美砂】



 ガンバ大阪がAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)を制覇した。選手、監督はもちろんのこと、スタッフ陣の貢献も、クラブがアジアの頂点を取る上で欠かせなかった。そこで本稿では、ピッチ外でガンバを支える“仕事人”たちにフォーカス。現地サウジアラビアで取材した高村美砂氏が、その奮闘を綴る。第1回は監督通訳の松崎裕について。(取材・文:高村美砂)

「イェンスは一言で表すと…」

ガンバ大阪
AFCチャンピオンズリーグ2を制したガンバ大阪【写真:Getty Images】

「初めにこれだけたくさんの方に来ていただいて、本当にありがとうございます。長い旅を経てようやく、大阪にこのカップを持って帰ってくることができました。皆さんを含めて僕も、そして後ろにいる選手たち全員、スタッフ、ガンバに関わる全員が本当に待ち望んだタイトルです。このカップは僕たちだけのものではないです。ここに関わる、ここにいる全員のものです。みんなでこの瞬間を喜びましょう! アリガトウゴザイマス!」(イェンス・ヴィッシング監督)

 帰国直後のAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)優勝報告会。チームを代表して最初にマイクの前に立ち、声を張り上げたイェンス・ヴィッシング監督の横で、その言葉を、感情を、余すことなく伝えていたのが今シーズンから監督通訳を務める松崎裕だった。

 昨シーズンまで在籍した横浜F・マリノスを離れ、松崎にとって初めての関西に足を踏み入れた今シーズン。日本、Jリーグでの仕事が初となるヴィッシング監督の隣で、氏のサッカー感をチームに落とし込み、「とにかく前向きで、熱い」という人柄を含めて伝播させる役割を担ってきた。



「イェンスは一言で表すと、真面目な人。もちろん、自分の考えは明確ですが、スタッフの意見にも耳を傾けるし、チーム内で『これはどうしようか』ということが起きた時に、その担当の専門的な意見もちゃんと汲み入れられる柔軟性も持ち合わせて仕事にあたられます。見ての通り、サッカー、チームづくりへの熱量もすごくて、選手の気持ちを盛り上げるのも上手だし、とにかくよく喋りますしね。

 ミーティングが多いのは、ガンバでの仕事が初めてで今は自分のサッカー観を定着させるために、敢えてなのか? もともとそういう性格なのか? 定かではないですが、とにかく自分のサッカー哲学、考え方をたくさんの言葉とともに伝えられる方であることは間違いないです。なので、僕はその思いを取りこぼさないように、受け取る側の選手、スタッフ、メディアの皆さん等々、彼に関わる人たちが正しく受け取れるように考えて仕事をしてきました」

 グラウンドでも、ロッカールームでもメディアを前にしても、ヴィッシング監督に劣らず、その一挙手一投足に熱を携えて監督の言葉を伝えてくれる松崎だが、本人曰く、世間に見せているのは、あくまで『通訳者』という仕事を通した自身の姿とか。

「監督がもしすごく大人しい方だったなら、僕もきっとすごく大人しく映っていると思いますよ」と笑う。

通訳者として最も大事にしていること

ガンバ大阪 イェンス・ヴィッシング監督
松崎裕はヴィッシング監督になりきって熱量や感情を伝えようと意識している【写真:Getty Images】

「通訳者というのは『言葉』を訳して伝える仕事。なので、極端な話、すごい熱量で言葉を発している監督に対して、それを無表情の棒読みで訳すのも、間違いないではないと思うんです。そこは通訳者の皆さんそれぞれに考えがあって、やり方があるし、どれも正解だと思います。

 ただ僕自身が大事にしているのは、その感情を含めて『伝える』ことなので。できるだけその人になりきって…イェンスになりきって言葉とか、そこに含まれる熱量、感情を伝えようということは常々考えています。なので、ワーッと感情を伝える人なら、僕も、ワーッとなりますし、淡々と話される方なら僕もそれに合わせて淡々と、と仕事をしているはずです。

 僕が試合中にイエローカードをもらうことがあるのも、おそらく、それが理由です(笑)。レフェリーにも時々、試合後『今日はすごくおとなしかったね』みたいな声を掛けられることもありますが、その度に『いやいや、僕はいつもあのテンションで生きているわけじゃないですよ。監督に合わせているだけです』とお答えしています。真偽のほどは…皆さんの想像にお任せします(笑)」



 冗談好きで、明るく、オフザピッチで笑顔を見ることも多い松崎のこと。また彼自身もサッカー経験者だということもあってか、普段から彼自身の言動にも胸の内に秘めたる熱量を垣間見ることが多いため、ここは敢えて、『真偽』の答えには言及しないでおく。

 だが、いずれにせよ今シーズン、ガンバがピッチで示してきた姿、ACL2初制覇の影に『二人羽織』の如くヴィッシング監督と呼吸を合わせて仕事にあたってきた松崎の貢献があったのはいうまでもない。

ACL2決勝前、印象に残ったヴィッシング監督の言葉とは

ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング
ACL2決勝前、ヴィッシング監督が発した言葉が松崎裕の心に残っている【写真:Getty Images】

「サッカー経験者の多くが自分のサッカー観を持ち合わせているように、僕自身にも好きなサッカーはあるし、サッカー観は持ち合わせてもいますが、通訳者としての仕事に僕のサッカー観は必要ないと思っています。ただ、先ほどもお伝えしたように、監督の考えが伝わらなければ、受け取る側が理解できなければ、それは正しい訳とは言えないというのが僕の考えなので。監督の言葉のままに、というだけではなく、言葉を多少、付け足してより正しく伝わるように工夫することはあります。

 その一方で監督に対しては、伝えすぎないことも心掛けています。イェンスであれば、今回初めて日本に来て、初めて監督の仕事をするにあたって、僕が見てきたJリーグ、そこでの経験を伝えてしまうと、それは僕の考え方になってしまうからです。なので、イェンスから尋ねられたことに対しては自分の考えを伝えることはありますが、基本的に自ら進んで考えを伝えることはしません。

 監督といえども彼も人間で、厳しい連戦の最中では監督ご自身が裏で苦しい顔をしていたのも見てきましたが、過剰に言葉を掛けることもしませんでした。イェンス自身がここで何を感じるのか。どうチームを作っていこうとしているのか。コミュニケーションを図る相手とどういう信頼関係を築いていこうとしているのか。僕はそこにしっかり寄り添っていければと思っています」



 そんな関係性を意識しながら仕事にあたってきた中で、ACL2決勝に臨むにあたり、松崎の中で強く印象に残しているイェンスの言葉がある。

「ここ、リヤドに来ることができたのはみんなが導き出してきた結果だ。ここにいるのに値するチーム、選手だから我々はここにいる。これは与えられた権利ではなく、自分たちが掴んだものだ。ここにいる我々にしか味わえない経験をして帰ろう。『タイトル』を持ち帰ろう。自信を持って、全部を出し切ろう」(ヴィッシング監督)

 その言葉のままに最後まで逞しく戦い抜き、掴み取った頂点の座。帰途に着くにあたって、宿泊ホテルから飛行機に乗るその瞬間まで大事そうにウイニングボールを抱えて離さなかったヴィッシング監督の横で、松崎が終始「誰にも触らせないと言ってます」と笑っていたのも、とても温かなシーンだった。

(取材・文:高村美砂)

【著者プロフィール:高村美砂】
雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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