「W杯のキーマンは誰か?」と問われた日本代表の選手たちは、例外なく同じ答えを返したという。サッカー日本代表 映画『ONE CREATURE』は、FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)に出場するチームの舞台裏を追ったドキュメンタリー作品だ。膨大な記録映像から見えてきたのは、戦術や個の能力だけでは説明できないチームの変化だった。なぜ選手たちは同じ答えにたどり着いたのか。映像に映し出された森保ジャパンの現在地について、岸 枢宇己監督と矢花宏太プロデューサーに聞いた。(取材・文:高橋大地)[1/2ページ]
「日本代表は一つの生き物に見えた」
――この作品は、“試合の記録”というより、“日本代表という組織”そのものを観察している映画だと感じました。最初からそういう作品にしようとしていたのでしょうか?
岸 枢宇己監督(以下、岸):俯瞰して見たときに、日本代表というチームが一つの「生き物」に見えたことが出発点でした。
バラバラの選手たちの意思が統一されて、一つの意思を持った生き物のように動いていく。それがなぜ可能なのかというところに興味を持ったんです。
大量の撮影素材を見ていると、選手たちが常にコミュニケーションを取っていて、お互いを理解しようとしていることが分かる。だから、その部分を描きたいという思いは自然にありました。
矢花宏太プロデューサー(以下、矢花):実はプレゼンの段階で、日本サッカー協会の宮本恒靖会長から「サッカーファンだけが喜ぶ映画ではなく、一般の人も何かを持ち帰れる映画にしてほしい」と言われていたんです。
岸さんが「生き物」という言葉を使ったときに、それならサッカーを詳しく知らない人でも、一つの生き物の物語として見られるんじゃないかと思いました。
サッカー界としても、「どうすればサッカーに興味のない人にも届くか」という課題があったので、その意味でも非常にしっくりきたコンセプトでした。
――確かにビジネスパーソンにも、森保一監督のマネジメントから得るものがあるんじゃないかと感じました。
矢花:まさに宮本会長もビジネスパーソンにもとおっしゃっていました。
「この4年間で成長したのは…」
――一方で、サッカーファンが見たいと思うような戦術的な変遷も描かれていたと思います。冒頭、カタールワールドカップ後に名波浩コーチが「ボール保持率を5%上げていきたい」と話していたシーンがありましたが、アジアカップ敗戦後は再び守備比重のチームへ揺り戻されていくようにも見えました。制作側から見て、この4年間の日本代表は、何を模索し続けていたのでしょうか?
岸:映画の中でも出てきますが、「主体性」や「主導権」という言葉が大きなテーマだったと思います。
自分たちが試合の主導権を握っているのかどうか。その感覚によって選手たちのメンタルも変わってくる。
ただ、「何をもって主導権とするのか」は選手たちの間でも議論があったようです。
例えば堂安律選手は、プレースタイルから見ると「ボールを保持して主導権を握ろう」というタイプだと思っていましたが、実際に話を聞くとそうではないんです。
カタールW杯のスペイン戦では日本のボール保持率は18%(※)ほどでした。それでも勝った。だから保持率だけが主導権ではない、という考え方もある。
※FIFA公式によればボール支配率18%での勝利は、W杯で勝利したチームとしては最低の数字
理想を追う考え方と、現実を重視する考え方。その両方がチームの中にあったように感じました。
矢花:森保監督もよく話していましたが、この4年間で成長したのは戦術面やフィジカル面だけではなく、「メンタルのインテンシティ」だったと思います。
ドイツやスペインに勝った経験もあれば、アジアカップで敗れた経験もある。
そうした成功も失敗も含めて積み重ねた結果、誰が出ても、どんな状況でも対応できるチームになってきた。その奥行きが生まれたことが大きかったと思います。
アジアカップに対する懸念があった
――アジアカップ敗戦後に「パッション不足」という言葉が出ていました。単なる精神論というよりも、「チームの温度」の問題として描かれていた印象があります。制作側としては、あの敗戦を通じて、強い個を集めるだけでは埋められない課題が見えた感覚もあったのでしょうか?
岸:もともと森保監督には、アジアカップに対する懸念があったそうなんです。
大会期間中はヨーロッパのリーグ戦が続いている時期なので、多くの選手たちは所属クラブを離れて代表に来ている。
当然、自分が抜けている間のクラブの状況が気になるんですよね。
実際、食堂などでも「お前のクラブどうなってる?」みたいな会話が聞こえてくるらしいんです。
――昨今の日本代表ならではの難しさですね。
岸:ワールドカップ本大会ではそういう状況にはなりません。全員が完全に代表に集中していますから。
でも、アジアカップは少し状況が違う。だから森保監督は大会前から、「選手たちの意識が少し散漫になる可能性がある」と懸念していたそうです。
実際にそういう部分を感じるところもあった。
戦術面を詰めることももちろん大事ですが、それ以上に心の緩みや乱れがあると、大会では力を発揮できない。
だからもう一度チームを引き締める必要があったんだと思います。
そして、その重要性を最も理解している選手をチームの中に入れようとした。
そういう狙いだったのかなと受け止めました。
――その後、長友佑都選手が合流することになります。長友選手が久々にチームへ戻ってきてから、チームの雰囲気はどのように変わったように見えましたか?
岸:僕自身は現場にいたわけではなく、撮影素材を見ていた立場ですが、若い選手たちがより、やりやすくなったように感じました。
もともと遠藤航選手も2023年3月の段階で「遠慮するなよ」と言っていましたが、 長友選手が入ることで、最年長の選手が率先していじられ役を買って出るようになる。
それによってチーム全体の空気が前向きになっているように見えました。
矢花:(本大会前のアイスランド戦に招集された)吉田麻也選手の存在も、まさにそういうことですよね。
チームのコンディションや意識が少し離れそうなときに、森保監督がちゃんと手を打っている印象があります。
三笘薫選手がいない、誰がいない、という話になったときに、「サッカー日本代表はどんな状況、環境にも、柔軟にポジティブに対応していくことができるチームだ。勇気を持っていこう。」と言ってくれる存在というか。
岸:そうですね。(森保監督の)一つひとつの判断に意味があるんだろうなと思います。



