
元サッカー日本女子代表で2011年の女子W杯優勝メンバーの岩清水梓(左)と丸山桂里奈(右)【写真:日本財団】
5月16日をもって、日テレ・東京ヴェルディベレーザ一筋26年の現役生活に幕を下ろした岩清水梓。2011年FIFA女子ワールドカップ優勝メンバーとして女子サッカー界を牽引し、出産後の現役復帰という新たな道も切り拓いてきたレジェンドが、なでしこジャパンの盟友・丸山桂里奈と対談した。世界一の記憶から出産、引退、そして女子サッカーの未来まで、約3時間にわたって本音で語り合った。(文:竹中愛美、記事提供:日本財団)[1/2ページ]
<対談の模様は、日本財団公式YouTube番組「2SQ-ツーショットクエスチョンズ-」で公開中>
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「働きながらサッカーをやる」のが当たり前だった時代

2025/26シーズン限りで現役を引退した岩清水梓【写真:日本財団】
今でこそWEリーグが誕生し、女子サッカー選手は「職業」として成立しつつある。しかし、岩清水梓と丸山桂里奈が現役時代を過ごした頃は全く違った。
丸山が「私たちの時代って、働きながらサッカーをやるのが普通だったよね。周りもみんな仕事して、その先に就職した会社に戻る人も多かった。女子はそういう道があったんだよね」と言えば、岩清水もこう答える。
「サッカーで成り上がろうとか、サッカーだけで食べていこうとか、そういう感覚じゃなかったんですよね。好きだから続けていたし、女子サッカーを有名にしたいっていう気持ちが強かった。サッカーを続けるために仕事をしていた感じでした」
丸山は東京電力で所長付きの事務職を経験し、岩清水は日テレ関連会社で事務やコンビニ勤務をこなしながら練習に通った。
それでも、サッカーを辞める選択肢はなかった。
「好きが全部を上回っていたし、女子サッカーを有名にしたい気持ちが強かった」
華やかな世界とは程遠い環境の中で、彼女たちは「なでしこジャパン」を目指し続けていた。
現役生活で最も嬉しかった瞬間を聞かれると、二人の答えは迷いなく一致した。
「優勝したっけ?」今でも不思議な2011年の世界一

岩清水梓とはなでしこジャパンの盟友であり、現在はタレントとして活躍する丸山桂里奈【写真:日本財団】
「やっぱりワールドカップ優勝」
2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会。開催国ドイツとの準々決勝で、丸山が延長後半に決勝ゴールを決めた。岩清水はいまも鮮明に覚えている。
「ドイツのお客さんが多い完全アウェーだったんですよ。ゴールした瞬間、スタジアムが本当にシーンとなった。ちょっと日本の人もいたけど、自分たちの声が聞こえるくらいで、『うわー!』って言ってる声だけが響いていて。
延長でみんな疲れていたのに、桂里奈ちゃんのゴールが嬉しすぎて、みんな全力ダッシュだった。だけど、その後すぐドイツがミドルシュートを打ってきて、『うわ、ここからか』って思った。クロスばかりだった相手が急に変わってきて、本当に最後まで怖かった」
一方の丸山は笑いながら当時のことを振り返る。
「延長後半3分だったんだけど、私、45分ぐらいに感じたもん(笑)。長っ、まだ終わらないのって。めちゃくちゃ苦しかった。あのゴールは走り込みのおかげだったと思う。嫌なことや苦手なことを乗り越えたから生まれたゴールだった」
そのドイツを破り、その後の決勝でアメリカに勝利し、日本は初優勝を成し遂げた。岩清水自身、あの大会を超える瞬間はないという。
「いろんなタイトルを取ったけど、やっぱりワールドカップ優勝は超えられない」
さらに、丸山は再び笑いながらこう話した。
「今でも『優勝したっけ?』って思うときがあるんですよ。言われると『そうだったっけ?』って」
それほど現実離れした偉業だった。岩清水は、長年女子サッカー界を支え続けた澤穂希の存在の大きさを強調する。
「澤さんがトロフィーを掲げている姿は感極まる思いだった。本当にサッカーの神様っているんだなと思った」
走り込みの日々「その貯金があったから…」

元サッカー日本女子代表の丸山桂里奈は走り込みが女子W杯でのゴールに繋がったという【写真:日本財団】
代表合宿ではボールを一切使わない“走り込み合宿”も経験した。
「陸上部なのかなって思った」(丸山)
「きつかったけど、団結にはなった」(岩清水)
ベレーザ時代には鬼のフィジカルメニューも経験した岩清水はそのときのトレーニングがあったからこそ、今につながっているという。
「そのときしか作れない貯金ってあると思うんですよ。私はその貯金があったから39歳までできたと思う。だから、今きつい練習をしている子たちには、それが未来につながるって伝えたい」
丸山も東日本大震災後、1か月間自主的に走り込みを続けた経験がドイツ戦のゴールにつながったと振り返る。
「自分がやってきて頑張ってきたことって、そのときはそんなに評価されていないようなんだけど、絶対にちゃんと見てくれる人がいて、それが本当に自分の最高の場所で発揮できるようになるって思う」
岩清水も同じようなことを現役最後の試合で感じたという。数々のタイトルを手にしてきたが、WEリーグでは無得点。初ゴールを狙っていた中、PKのチャンスが巡ってきて、それをしっかりと決めてみせた。
「あんなPKになることなんて滅多にないじゃん。試合の中でPKって1本あるかないかなわけだし。私が『最後の試合です』って言ってて、そんなことあるなんて思ってなかったから。それも含めて、頑張ってきた人への褒美みたいなのは絶対にあるんだなってすごい思った」
二人の言葉からは、積み重ねることの大切さが伝わってくる。