出身地の埼玉県戸田市でサッカー教室を開いたなでしこジャパンの長谷川唯【写真:編集部】
世界最高峰の舞台で結果を追い求める一方、その先にある女子サッカーの未来も見据えていた。なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の長谷川唯は7月11日、元なでしこジャパンの澤穂希氏との刊行記念イベントに登壇。その後、地元・埼玉県戸田市で約100人の子どもたちとサッカーを通じて交流した。来年のFIFA女子ワールドカップ2027へ向かう中、自身の原点と未来を改めて見つめ直す一日となった。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
澤穂希との対談、そして地元・戸田へ

地元の埼玉県戸田市で『Dream Clinic 唯「夢を未来につなぐtoda」』を開催した長谷川唯【写真:編集部】
束の間のオフ。それでも長谷川唯は、サッカーから離れなかった。
イングランド女子1部リーグ(WSL)のマンチェスター・シティWFCでは2025/26シーズン、10季ぶりのリーグ優勝とFA女子カップ優勝を果たし、2冠達成に貢献。世界最高峰の舞台で充実したシーズンを終えた長谷川は、日本で過ごす短いオフも、サッカーと向き合い続けている。
7月11日には、7月10日に発売された『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』の刊行を記念し、元なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の澤穂希氏とともにトークショー&サイン会に登壇。その後は出身地・埼玉県戸田市へ移動し、『Dream Clinic 唯「夢を未来につなぐtoda」』を開催した。
今回で2回目となるサッカー教室には約100人の小中高生が参加。長谷川は子どもたちとミニゲームを楽しみ、記念撮影にも応じたほか、自費で購入した著書約100冊にサインを書いてプレゼント。
さらに、自身が小学生のときに所属した戸田南FCスポーツ少年団へユニフォーム40枚を贈呈した。
午前は澤氏と女子サッカーの未来を語り合い、午後は子どもたちと汗を流す。一見別々のイベントのようでいて、この二つの時間は、長谷川の中で一本につながっていた。
トークショーでは、昨季の戦いも振り返った。
監督交代によってチームの戦い方は大きく変わり、「シーズン初めは『これで合ってるかな』、『これで勝てるかな』という雰囲気もあった」と明かしながらも、選手と監督が対話を重ね、「すごく勢いのある良いチームになった」という。
その姿を見続けてきた澤氏は、海外のビッグクラブで中心選手としてプレーし続ける長谷川を高く評価する。
「誰から言われるよりも、澤さんに言われるのがうれしい」

『ジュニア版 夢をかなえる。』×『SMILE わたしを笑顔にする40の思考と習慣』のダブル刊行記念トークショー&サイン会に登壇した長谷川唯(左)と澤穂希氏(右)【写真:編集部】
「海外で、ビッグクラブで結果を出すってそう簡単なことじゃない中で、中心選手として海外の選手やファン、監督やスタッフの方からもリスペクトされて認められるって相当すごいこと」
さらに、攻撃だけでなく、長谷川の守備能力にも言及した。
「わざと相手にボールを出させる守備だったりとか、すごく考えながら守備をしてるなと思っていた。ただ、1回守備をするだけじゃなくて、2度追えて、3度追える。小柄なのに1人でも取れちゃうような守備の能力も高い」
長谷川は思わず笑みを浮かべた。
「本当に誰から言われるよりも、澤さんに言われるのがすごく嬉しいです。守備のところの大事さとか面白さは、この前一緒に話していてもすごく考えが一緒で嬉しかったですし、サッカーの楽しさって守備にあるんだよ、っていうのはすごく伝えたいところかなと思います」
対談を終えた長谷川は、その足で地元・戸田へ向かった。
グラウンドに立った長谷川は、懐かしそうに土を踏みしめた。
「シンプルにまず土というところで、難しさがあったなというのは個人的に思っているんですけど、懐かしさもあったり、小さい頃よく土のグラウンドでトラップだったり、パスの練習をしていたのを思い出すような感覚で、良い機会になりました」
長谷川自身も、かつてはサッカー教室に参加する子どもの一人だった。
「初心に立ち返る」。子どもたちから受け取ったもの

サッカー教室では長谷川唯からボールを奪おうと必死にプレーする子どもたちの姿もみられた【写真:編集部】
「ベレーザのサッカークリニックみたいなのに参加させてもらったことがあって、小4とか、小5とかだと思うんですけど、ガンさん、荒川恵理子さんの横に最後座って、写真を撮った記憶があって。そのサッカースクールはすごく楽しくて、それもベレーザに入りたいと思ったひとつのきっかけになったので、そのサッカースクールはすごいよく覚えています」
当時、憧れた荒川恵理子氏の存在はいまも鮮明に残る。
「ガンさん(荒川の愛称)の性格の良さとか、元気の良さとか、面白さとかも含めて全部が好きで、見るとすごいそわそわしていたというか、そんな記憶があります」
かつて憧れの選手を見上げていた少女は、今や子どもたちに夢を与える立場となった。子どもたちとの時間は、教えるだけでは終わらなかった。
「正直、あまり元気が足りないなっていうのを率直に感じたので、自分が小さかったときのことを思い出しても、もっとボールを欲しかったりとか、本当に積極的にやっていたイメージがあるので、きょうはそういうのも含めてちょくちょく伝えてはいました」
一方で、長谷川自身も大切なものを受け取ったという。
「一生懸命やろうとする気持ちみたいなものは見えていて、きょうはミックスでやったので、結構年の差がある選手たちもいた中で、小さい選手でも頑張ってドリブルだったり、良いところにパスを出そうという気持ちを見れた。
自分もそういうことを経験してやってきたので、初心に立ち返るじゃないですけど、こういう時期もあったなっていうのは今回改めて考える良い機会になりました」
この一日は、澤氏との対談ともつながっていたようだ。
「こうやって一日通して、澤さんに会ってからスクールとかは本当に今までもないですし、これからもあるかわからないと思うので。
でも、澤さんとさっき話したように、なでしこの受け継がなければいけないものというか、気持ちの部分もそうだし、プレーのところで受け継いでいけるものは受け継いでいきたいと思っているので、そういう意味では、きょうみんなとサッカーができて、少しでも伝わったらいいかなという気持ちで思っていた」
澤氏から受け取ったものを、今度は次の世代へ。その思いが、長谷川の言葉にはにじんでいた。長谷川の中で女子サッカーの普及や育成への思いも徐々に強くなってきているのは確かだ。