ガンバ大阪がタイトルを獲得した瞬間、福岡将太の頬を涙が伝った。チームの優勝は誰よりもうれしい。それでも、ピッチの外から見届けるしかなかった自分を、素直には受け入れられなかった。「うれしさなのか、悔しさなのかわからなかった」。30代で初めて経験した大ケガは、ベテランセンターバックにサッカーとの向き合い方を改めて問いかけた。復帰を果たした今、福岡は「リスタート」をテーマに、新シーズンへの一歩を踏み出している。(取材・文:高村美砂)
「今はそこに体を慣らすのが大変」
今年の2月。途中出場したJ1百年構想リーグの名古屋グランパス戦で、左ハムストリングを肉離れ。特別シーズンのほとんどをリハビリに費やしてきたガンバ大阪の福岡将太が戦列に戻ってきた。
正確には、特別シーズンの最終盤には全体練習にも合流。6月のプレーオフラウンド・東京ヴェルディ戦にもやや無理をすれば出場できないこともなかったが、焦る気持ちは封印して、2026/27に気持ちを向けていたという。
「百年構想リーグの順位を決定する試合ではあったんですけど、トレーナーとも相談してここで無理をする必要はないだろうという結論に至りました。ただ、その分と言ってはなんですけど、徳真(鈴木)や大地(林)ら、シーズン最終盤で少し痛みを抱えていたメンバーと、チームが始動する1週間前にはプレキャンプみたいな形で体を動かしてからオーストリアキャプに向かいました。
結果、オーストリアキャンプを通して、痛めた箇所に違和感を感じることもなく、気候も含めていい環境でいい準備期間を過ごせました。復帰後、初めての練習試合となったスパルタ・プラハ戦では全然ダメだなと思っていた頭のキレとか、瞬発的なプレーのキレの部分も、大阪に戻ってきて、時間が経つうちに取り戻してきた感もあるので、とにかく今は時間を積み重ねていくことに集中してリーグ開幕戦に向かっています。
ただ、大阪が暑すぎる!(笑)。今はそこに体を慣らすのが大変なのもあるし、大阪に戻った最初の1週間はハードなトレーニングに向き合ってきた分、体の重さ、疲労感も感じていますけど、ツエーゲン金沢とのプレシーズンマッチを戦い終えて1つ乗り越えた感もあるので。ここからまたしっかり上げていくだけだと思っています」
「気づけば涙が流れていて…」
福岡のいう『頭のキレ』とは、ピッチ上でどのエリアが危険かを察知しながら、瞬時に局面に応じて判断を変えるための思考のスイッチのようなもの。ガンバに加入して5シーズン目。30代に突入して初めての大ケガだった中で「感覚的な部分が少しリセットされてしまったような気がする」と福岡。今はまず、そこを取り戻すことが、厳しいセンターバック争いを競り勝つには不可欠だと考えているという。
「ミョウさん(明神智和)が監督に就任された中でも、基本的にはこの特別シーズンで取り組んだサッカーを継承するという方向で進んでいるので。となると僕ら守備陣としても前に、前に、ラインを上げることを求められる。
ただ僕の場合、特別シーズンも(自分が出場した)2試合目で離脱になってしまい、ほぼ新しいサッカーを公式戦では試せないままシーズンを終えてしまったので。そういう意味では、まだ少し自分の中に怖さがあるというか。自分たちの後ろに広大なスペースがあることや、センターバックの守備範囲の広さにも慣れていかなきゃいけないな、と。そうしたセンターバックのタスクをいかに自分に落とし込んでいけるかという部分は、まだまだ詰めていかなくちゃいけないと感じています」
一方、チームとしてはオーストリアキャンプが始まる直前に前監督が退任するという慌ただしいスタートになった中でも、気持ちを1つに進んでいると強調した。
「ミョウさんのもと、みんなが同じ方向を向いてやるしかないって気持ちになっているし、イェンス(・ヴィッシング前監督)がいなくなってもそこまであたふたした感じもない。みんながこの特別シーズンでの戦い、結果を元にやらなくちゃいけないことに真摯に向き合っている雰囲気はあるし、常に『前へ』ということを意識したサッカーを継続することについても、ポジティブに取り組んでいます。
また、チームとして10個目の『タイトル』を獲得して、その喜びを知ったからこその基準みたいなものを持って今シーズンに臨めているのもいい雰囲気につながっているんじゃないかな。ただ、僕自身はそこを味わえていないので。当然、勝った瞬間は、チームが大変なハードスケジュールを乗り越えながら結果にこだわって戦い続ける姿を見ていたからこそ『ああ、よかったな』って気持ちにもなったし、クラブにとってもすごく意味のあるタイトルになったと受け止めました。
でも、その反面、大阪で、『DAZN』で試合を観ていた自分はといえば、すごく悔しかったというのも本音なので。チームが優勝したのに、結果を出せたのに、初めて素直に喜べない自分もいたし、気づけば涙が流れていて…それが嬉しさなのか、悔しさなのかわからないっていう感情になったのも初めてでした。
ただ今は、その感情を味わえたことも意味があると思えているので。自分としてはそれを胸に留めながら、しっかりプレーで表現していくだけだと思っています」
「自分も負けていられない」そう思ったきっかけ
そう話す福岡は、このオフシーズン中、家族の故郷でもある沖縄で、今年で3回目となる『石垣島サッカークリニック』を開催。地元の人たちの協力も仰ぎながら、小学校1〜3年生30人、4〜6年生50人とクタクタになるまでボールを蹴ったという。
「リハビリをしている間にすっかり肌も色白になってたけど、この1日で元通りの黒さになった(笑)!」
子供たちにサッカーを通して「真剣に取り組むからこそ楽しめる。意味がない練習なんてないよ」と伝えた時間を通して、彼自身も改めてサッカーをできる喜びを実感できたそうだ。
「去年参加してくれた子が今年も来てくれたりしたんですけど、その成長を感じて『ああ、前回伝えた課題にしっかり取り組んでくれたんだな』って確認できたり、子供たちの成長スピードに触れて、自分も負けていられないって思いました。
子供たちに話すことは、イコール、自分の頭の中だと考えても、それを確認して新シーズンを始められたのもよかったです。そうしたこともまた自分の力にして自分らしく戦っていこうと思います」
2026/27シーズンの自身のテーマを尋ねると「リスタート」と本人。30代で味わった初めての大ケガを、自分はいかに乗り越えてピッチに戻っていくのか。
サッカーができる喜びを噛み締めながら、「過信ではなく自信を持って進む」福岡のリスタートが始まっている。
(取材・文:高村美砂)
【著者プロフィール:高村美砂】
雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。
【関連記事】
【ガンバ大阪 ACL2優勝記念/スタッフ戦記全4回】
「今の監督は僕に合っている」ガンバ大阪、美藤倫がヴィッシング体制で掴んだ自信と成長意欲。「上には上がいる」と知った世界との差とは【コラム】/a>
「ガンバ大阪のために」戦うウェルトンの素顔。ケガを乗り越え、課題に向き合う「監督が理想とするプレーにもっと…」【コラム】
【了】




