【写真:Getty Images】
2025/26シーズンをプレミアリーグ10位で終えたチェルシーが、大きな転換点を迎えている。クラブはシャビ・アロンソ新監督を「マネージャー」として招聘し、フロント主導だった強化体制を見直した。若手主体の補強路線からベテラン獲得へと舵を切った背景には何があるのだろうか。新指揮官に大きな権限を託した狙いとは。(文:安洋一郎)[1/2ページ]
新監督にシャビ・アロンソを招聘

昨季10位に終わったチェルシー【写真:Getty Images】
2025/26シーズンのプレミアリーグを10位で終えたチェルシーが、大規模な改革に乗り出している。
シーズン終了前の5月17日、チェルシーは前レアル・マドリード監督のシャビ・アロンソの新監督就任を発表した。その際に肩書は「マネージャー」と明記されていた。
これは大きな変化と言えるだろう。
近年のフットボールクラブは役割が分業化されており、2022/23シーズンからオーナーを務める現体制のチェルシーでは、監督には「ヘッドコーチ制」を採用していた。
移籍をはじめとするピッチ外の交渉はスポーツ・ディレクター(SD)をはじめとするフロントが最終的な決定権を持ち、監督はあくまでもピッチ上での仕事に専念するという方法だ。
一方の「マネージャー」は、監督がより幅広い権限と責任を担う。その範囲はクラブによって異なるが、長期政権を築くアーセナルのミケル・アルテタやアストン・ヴィラのウナイ・エメリは、移籍においても強い権限を持つことで知られる。すなわち監督の意向が通りやすい環境だ。
今夏、チェルシーはフロントの意向が絶対的だった前監督までの体制から一転して、監督の意向が出やすいマネージャー制へと変更した。
本稿執筆時点では新シーズンは開幕していないが、すでにその傾向が出ていると言えるだろう。
若手偏重だったチェルシー

コール・パーマーとリアム・デラップ【写真:Getty Images】
チェルシーは2023年1月の移籍市場以降、明確にリクルート方針を若手中心へと転換していた。
2022年11月にデータ主導での若手発掘に長けたブライトンで実績を残したポール・ウィンスタンリーをSDとして迎えた。その後もマンチェスター・シティのアカデミーでリクルート責任者を務めていたジョー・シールズやレッドブル・グループでリクルートと育成に携わっていたローレンス・スチュワートらを加えている。
この方針転換はピッチ上の結果にも大きな影響を与えた。特にシールズのコネクションでマンチェスター・シティ関係者を積極的に集めるようになり、2024/25シーズンには同クラブのセカンドチーム監督や、トップチームでアシスタントコーチを務めたエンツォ・マレスカを監督に招聘した。
選手補強もコール・パーマーを筆頭にロメオ・ラヴィア、リアム・デラップ、ジェイミー・バイノー=ギッテンスらマンチェスター・シティのアカデミーに在籍経験のある若手選手たちを多く獲得している。
他にも10代や20代前半の有望株を世界中のクラブから積極的に獲得。一方でベテランの放出が進み、2023/24シーズンから昨季まで3シーズン連続でプレミアリーグのスタメンの平均年齢は24歳で、いずれも最年少だった。
この若手選手を中心としたリクルートは成功した側面と失敗した側面の両方がある。
ポジティブな面で見ると、若手選手の獲得はクラブ側にとってはリスクが少ないという点だ。
若い選手は「将来性」という不確定かつ抽象的な要素も評価される。従って市場価格が上がりやすい傾向にあり、仮に構想外となっても移籍金を回収しやすい。
そのため監督交代に左右されることなくスカッドの入れ替えを進めることも可能で、スカッドを刷新しやすいとも言える。
一方でフットボールクラブにおいて最も重要な「ピッチ上」に目を向けると、若手主体であるがゆえの課題が多く出ていた。
若手選手が中心だったゆえの未熟さ

元チェルシーのリアム・ロシニアー監督【写真:Getty Images】
昨季のチェルシーは最年長が28歳のトシン・アダラバイヨだった。先述した通り、スタメンの平均年齢は24歳であり、「経験不足」が露呈した試合が多く見られた。
若手主体のチームは、一時的に爆発的なパフォーマンスを見せることがある。実際にチェルシーは2025年に行われたFIFAクラブワールドカップ(クラブW杯)を制した。
しかし、長丁場となるリーグ戦においては、戦いぶりに波があるのも事実だ。現オーナー体制においてプレミアリーグの順位は12位→6位→4位→10位と安定した成績を収めることができていない。
昨季もリーグ戦だけで8度の退場者が出てしまうなど、メンタル面での未熟さがプレーにも表れた。
また、規律面での未熟さも昨季の課題の一つだった。選手としての実績でチェルシーの選手たちを大きく上回るわけではなかったリアム・ロシニアー前監督やスタッフ陣に対し、十分なリスペクトを欠くような振る舞いも見られたのだ。
シャビ・アロンソ体制では、こうした経験不足をはじめとする課題を克服する意味もあり、指揮官の意向が明確に表れている。
その一つが経験豊富なベテラン選手の獲得だ。6月末にイギリス『Sky Sports』をはじめとする多くのメディアがレバークーゼン時代の教え子であるグラニト・ジャカ獲得の可能性を報じた。
この移籍は成立しなかったが、8月1日に35歳のダニー・ウェルベック、3日に36歳のジョーダン・ヘンダーソンの獲得を発表した。
チェルシーが30歳以上の選手を獲得したのは、現オーナー体制で初の移籍市場を迎えた2022年夏以来である。
これまでのクラブ方針から大きく外れる補強は、シャビ・アロンソ新監督の強い意向が反映されていることがうかがえる。