今年3月のAFC女子アジアカップで優勝したなでしこジャパン【写真:Getty Images】
日本サッカー協会(JFA)は8月14日、東京都内で「JFAみらい会議―女子サッカーの成長へ―」を開催し、2026年から2031年を対象とするJFAの成長戦略のうちのひとつである「女子サッカーの拡大」の実現に向けた「女子全体戦略」を発表した。掲げた目標は、主要国際大会での優勝、女子サッカー関連人口の倍増、そしてブランド価値向上の3つ。なでしこジャパンの強化だけにとどまらない、女子サッカー界全体の成長を目指す5年間の構想が示された。(取材・文:竹中愛美)[1/2ページ]
「世界一」だけではない。2031年までにJFAが目指す女子サッカー

JFAが打ち出した「女子サッカー全体戦略2026~2031」のスローガンは、「覚悟を胸に、ともに挑む。次のステージへ」だ【写真:編集部】
今回、日本サッカー協会(JFA)が打ち出した「女子サッカー全体戦略2026~2031」のスローガンは、「覚悟を胸に、ともに挑む。次のステージへ」。その言葉通り、今回の戦略は、なでしこジャパンの強化だけを目的としたものではない。
掲げられたゴールは3つある。主要国際競技会での優勝、女子サッカー関連人口2倍、そして、ブランド価値の向上だ。
主要国際競技会には、2027年のFIFA女子ワールドカップ(W杯)や2028年のロサンゼルスオリンピック、2030年のAFC女子アジアカップが含まれる。なでしこジャパンが再び世界一を目指すことは、もちろん戦略の大きな柱だ。
一方、関連人口2倍は、単純に女子の登録選手を増やすという話ではない。「する」人だけでなく、女性指導者や女性審判員などの「支える」人、観客や視聴者、SNSフォロワーなどの「みる」人までを対象にする。
さらに、ブランド価値を示す指標として、「プレー推奨度」と「観戦推奨度」を2031年までに10ポイント引き上げることも掲げた。
なぜ、ここまで広い目標を設定したのか。
その背景には、JFAが海外の女子サッカーを視察する中で見えてきた、日本の現在地がある。
JFAは昨年1年間をかけて、アメリカ、イングランド、ドイツ、スペイン、スイス、イタリアを訪問。各国協会の女子担当者やリーグ責任者から話を聞き、女子サッカーの発展を代表チームの競技成績だけでなく、「する・みる・投資する」という文化や市場の広がりも含めて段階的に整理した。
その上で、日本は「第2.5段階」に位置すると分析した。
アメリカはすでに女子サッカーが文化として根付いた「第5段階」の成熟フェーズ。イングランドはその一つ手前となる高成長フェーズにあり、ドイツやスペインも市場の拡大が進む段階にあるという。
一方、日本は代表チームの競技力だけを見れば世界トップクラスだ。なでしこジャパンのFIFAランキングは現在5位。2021年から2026年にかけて海外組の比率も27%から85%へと大きく上昇し、海外主要リーグでプレーする日本人選手は5年間で約3.2倍となった。
しかし、国内に目を向けると、女子サッカーを「する」、「みる」、そして「投資する」文化は、まだ十分に広がっていない。
女子の登録者数は2011年の女子W杯優勝をきっかけに5万人まで増えたものの、その後約15年間、大きな伸びが見られていない。
JFA女子部部長の平井徹氏は、この状況について「これは才能の差ではなくて、機会の差であると思っています」と説明した。
つまり、日本は「世界で戦える代表チーム」はすでに持っている。しかし、その競技力を国内のプレー人口や観客、ファン、そして市場の成長へとつなげる部分に、まだ大きな伸びしろがある。
JFAが今回掲げた3つのゴールは、まさにそのギャップを埋めるためのものだ。
だからこそJFAは、2031年までに「価値が高まり、市場が拡大している」第4段階への到達を目標に定めた。
「5万人」の先へ。宮間あや氏が考える“サッカーを始めるハードル”

元なでしこジャパンのキャプテンであり、現在はJFA女子委員会副委員長を務める宮間あや氏【写真:編集部】
登録者数だけを見れば、女子サッカーは国内の他競技との差も大きい。2025年の登録者数はバレーボールが約27万2000人、バスケットボールが約23万2000人。それに対してサッカーは約5万2000人にとどまる。
平井氏は、海外強豪国との比較でも、日本の女子登録者数が女性人口に占める割合は0.1%にすぎず、イングランドは0.9%、アメリカは1.2%に達すると説明した。
今回の戦略では「どうやって女の子をサッカーに出会わせるか」だけでなく、「どうやって続けてもらうか」が大きな課題として設定されている。
特に5~10歳では体験後のつなぎ止め、10~12歳では女子同士で継続してプレーできる機会、12~15歳では中学年代の受け皿確保を課題に挙げる。U-15の前にチームを組成し、サッカーを続けられる環境を広げることが狙いだ。
パネルディスカッションでは、この問題についても質問が飛んだ。元なでしこジャパンで、現在はJFA女子委員会副委員長を務める宮間あや氏が、女子サッカーを始めるにあたって、ハードルを下げるための工夫をこのように答える。
「今、外が夏は暑くてとか、あとはだいぶ良くなりましたけど、人工芝のグラウンドがなかったり、土で泥まみれになるとか。ものすごい日に焼けるとかは、きっと女の子たちにとっては少しハードルが(ある)」
それは選手本人だけではない。「女の子を持つ親御さん」にとってもハードルになり得るという。
だからこそ宮間氏は、「例えば体育館でフットサルから始めてみるであったりとか、機会を提供していくことができたら、少しずつ増やしていけるんじゃないかな」と話した。
宮本恒靖会長も「日焼け問題は常に元なでしこの皆さんは言ってます」としたうえで、女子フットサルの国際大会などを日本で開催することも、女の子たちが女子サッカーに興味を持つきっかけになり得るとの考えを示した。
さらに育成年代では、来年からU-18女子プレミアリーグをスタートさせることも決定。宮本会長は「できるだけ早く高いレベルで競技をしてもらって、経験してもらって、そこからなでしこリーグだったり、WEリーグだったりとかにつなげていく、その先の海外リーグであったり、なでしこジャパンというところが理想です」と語った。
選手を増やすだけではない。始める、続ける、育つ。その一連の道筋をつくることが、今回の「する人の増加」の中核にある。
そして、もう一つ欠かせないのが「みる」ことだ。
「憧れ」をどう生み出すか。女子サッカーを「みる」人を増やすために

「女子全体戦略」について説明するJFA女子部部長の平井徹氏【写真:編集部】
JFAの資料によれば、2025年から2026年7月までのなでしこジャパン国際Aマッチホームゲームの平均観客数は8590人。イングランドの3万7153人、ドイツの2万7134人、アメリカの1万9322人などと比較すると、まだ差がある。
国内リーグでも、2025-26シーズンのWEリーグの平均観客数は2392人。アメリカのNWSLは1万669人、イングランドのWSLは6841人と開きはあるが、WSLの開幕5年目の平均観客数は1100名で、現在の水準に届くまで10年が掛かっている。
WEリーグは開幕5年目でおよそ2400人ということを考えれば、日本の最高峰リーグにも伸びしろが残されている。
だからこそJFAは、「女子・女性の憧れの獲得」を成功要因の一つに設定した。
宮本会長は冒頭、「子供たちや、女の子たちがああいうふうになりたいというような、思ってもらえるようなヒーローが生まれてくるところをぜひ目指したい」と語った。
そして、その「憧れ」を生み出す存在として、なでしこジャパンの活躍を挙げる。
「なでしこの選手たち、チームの活躍が子供たちに刺激を与えて、サッカーをやってみたい、面白そうだなというところを作っていきたい」
選手の発信力も重要になる。JFAの資料では、代表選手の平均SNS(インスタグラム)フォロワー数で日本は4万1526人と、スペインの42万443人、イングランドの40万4646人などに大きく水をあけられている。日本で10万人を超えるのは長谷川唯、清水梨紗の2人だという。
一方で、宮本会長が「世界の女子のサッカーでの立ち位置」を強く感じた瞬間もあった。
2023年の女子W杯決勝で、宮間氏が優勝トロフィーを運んだ場面だ。
「日本人としては何て誇らしいのかと思うような瞬間であり、やはり宮間さんの世界の女子サッカーでの立ち位置であったり、なでしこジャパンというチームがリスペクトされているんだなということを感じた」
JFAはその価値を、国内にも広げていく思いだ。
なでしこジャパンだけでなく、WEリーグやなでしこリーグとも連携し、年間を通じて女子サッカーが目に入る機会を増やす。JFAの資料では、WEリーグと連携して観客数1万人というピークを作り、ファミリーや若い世代への客層拡大を目指す構想も示されている。
そして、選手自身もその役割を理解している。
なでしこジャパンの浜野まいかは、「私も小さい頃なでしこジャパンのプレーを見て勇気づけられ、私もこうなりたいと感じていました」と振り返った。
かつて自分が受け取った「憧れ」を、今度は次の世代へ渡していく。
そこに、今回の戦略が掲げる「関連人口2倍」の大きな意味がある。
もう一つ、今回の戦略で大きく変わったのが「商業価値」という視点だ。