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研ぎ澄まされた感覚の先にゴールがある。名波浩が見るブラインドサッカーの魅力

6月15・16日に味の素スタジアムで「第12回アクサ ブラインドサッカー日本選手権B1大会」が開催された。ブラインドサッカーは、視覚障害者が行うサッカーである。全くマイナーな競技だが、パラリンピックの正式種目だ。今大会のアドバイザーを務めた名波浩が、その魅力を語ってくれた。

text by 木之下潤 photo by Haruo Wanibe

ブラインドサッカーとは? B1大会とは?

 ブラインドサッカーとは、視覚障害者が行うサッカーのことである。視覚障害者と言っても、盲目もいれば、弱視もいる。6月15・16日に味の素スタジアムで開催された「第12回アクサ ブラインドサッカー日本選手権B1大会」は、盲目の選手が中心になってプレーするB1クラスの大会。

 目が見ない人の中にも光を感じる人がいるため、GK以外のフィールドに立つ4人の選手は目にアイパッチと呼ばれるガーゼを付け、その上をマスクで覆って公平を期する。

研ぎ澄まされた感覚の先にゴールがある。名波浩が見るブラインドサッカーの魅力
決勝を戦ったAvanzareつくば(青)と松戸・乃木坂ユナイテッド(白)。シュートを放つエース・田村友一のハットトリックによる活躍で、つくばが松戸・乃木坂を退け、3-0で2年ぶりの優勝を果たした【写真:鰐部春雄】

 マスクをした選手は、まさに暗闇の中でサッカーをしている状態だ。想像すると「ボールはどうやって探すの?」「タッチラインが見えないけど、ピッチの幅はどうやって把握するの?」など、さまざまな疑問が思い浮かぶだろう。

 知らない人のために、少しだけこの競技の説明を前置きさせていただく。実は、ボールには鉛が入っている。転がるとカチャカチャと少し甲高い音が鳴り、その音を頼りに選手はプレーする。

 タッチラインには高さ120センチの壁が設置され、ボールがラインの外に出ることはない。選手は自分たちが発する声の反響で壁までの距離を把握する。唯一ゴールラインを割った時だけ、プレーが途切れ、GKのスローイン、もしくはCKでプレーが再開される。

 ピッチの大きさは縦40メートル×横20メートル程度と、フットサルのサイズに近い。フィールドで自由を与えられるのは、GKを除いた4人の選手のみ。彼らがゴールを目指し、ゴールを死守する。だが、目が見えないがゆえに、サッカーとは違うルールが存在する。

 GKは晴眼者(目が見える人)が務めるが、プレーエリアは縦2メートル×横5メートルと極端にせまい。エリア外に出ることは許されず、外でボールに触れるとファウルになる。また当然、フィールドの選手はゴールの位置がわからない。

 だから、彼らにゴールの場所を知らせるコーラーと呼ばれる選手がゴール裏で指示を出す。ほかにも、守備時には「Voy」という声を発して、自分のいる位置を知らせなければならない。そうしなければ、攻撃側が不利になるからだ。

 つけ加えると、観戦者にもマナーがある。試合中は音を出すのが厳禁。なぜなら、選手はボールの音や監督、GK、コーラーの指示を聞いてプレーをするからだ。サッカーなのに特異な光景だが、スタンドには「Be quiet!」の看板が向けられる。喜びを爆発させられるのは、ゴールが決まった時だけだ。

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