「売国奴」と呼ばれて――。(後編)【サッカー批評 isuue59】

『韓国五輪代表フィジカルコーチを務めた日本人、池田誠剛が語る「日韓戦の真実と葛藤」』
日本人で初めて韓国五輪代表のフィジカルコーチを務めた池田誠剛氏。「売国奴」「非国民」――ロンドン五輪の日韓戦後は様々な誤解もあり、一部の人から心ない誹謗中傷を受けた。彼はなぜ韓国に渡ったのか? そしてロンドンで去来した複雑な想いとは?あの日の舞台裏をいま、振り返る。

2012年12月16日(Sun)9時55分配信

text by 元川悦子 photo editorial staff
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【前編から続く】

朴鐘佑が起こした行動と対応

――韓国勝利の瞬間はどのような心境だったのでしょうか?

「試合が終わった後、勝利の達成感とともに全く別の複雑な感情が入り込んできて、自分でもどう処理したらいいのか分からなくなった。生まれてから一度も感じたことのない思いが一気に押し寄せてきたことだけは強烈に覚えています」

――特に強く印象に残っている場面は?

「幼い頃からよく知っている齋藤学(横浜)がガックリとうなだれていた姿ですね。それを見て、すぐロッカールームに引き上げました。それ以外は記憶が曖昧で、韓国の選手が輪になって喜んでいたことも、朴鐘佑が横断幕を掲げたことも全く知りません。監督の明甫さんも日本人である私に気を遣ったのか、『胴上げされたよ』と言いながら、早々とロッカーに戻ってきたので、その出来事を認識していなかったと思います」

――朴鐘佑選手の行動について池田さんがメディアに尋ねられた際、「選手は試合に集中していたので、何も考えずに行動したようだ」と発言されたことが、日韓両国でかなり波紋を呼んだようですが。

「確かにそうですね。表彰式の時、日本の記者の方に『朴鐘佑選手が事前に横断幕を準備していたという話ですが、そのことは知っていましたか?』と聞かれたんです。僕はそんなことあるはずないと思って口にした言葉でしたが、『選手は考えないで行動した』という発言だけが独り歩きして報道されて、2ちゃんねるなんかで大騒ぎになっていたんですよ。『選手には試合の準備以外をする余裕はない』という思いで、彼らの努力を評価した言葉が誤って伝わってしまい、結果として僕自身の批判、日本にいた家族や関係者にまで誹謗中傷が及んでしまった。そのことは、先を考えていない軽率な発言だったと思います」

――池田さんは朴選手の取った行動をどう思っていますか?

「彼の行為自体は愚か以外の何物でもないと思うし、あの場でメッセージを出すことは許されない。それは当然のことです。ただ、僕は彼らと1年半、一緒に戦ってきたから、五輪に賭ける強い思いをよく理解していた。本当に心から純粋にサッカーをやっていました。そんな彼が事前に横断幕を準備しているはずがないと分かっていたから、僕はそう発言したんです」

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