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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(前編)

『常に攻めて行くことこそがイングランドフットボールの真髄である』
11-12シーズン、プレミアリーグを制したマンチェスター・シティ。09年より監督に就任し、プレミア屈指のタレント集団を着実にステップアップさせたロベルト・マンチーニの手腕とはいかなるものか。自身の哲学とともに、プレミアリーグの真髄についてじっくりと話を聞いた。翻訳:宮崎隆司

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

【後編はこちらから】 | 【欧州サッカー批評6】掲載

追求し続ける完璧な攻守のバランス

――ロベルト、今回は「監督マンチーニ」と「英国フットボール」について詳しく聞かせていただきたい。まず一体どのような経緯で監督としてのキャリアをスタートしたのでしょうか。

「そうだね……、僕は現役当時から既に監督のような存在だった、と自負するところがあってね。極めて自然に監督への道を歩み始めたということになる。

 現役当時の僕はピッチ上で実際にプレーしながら試合の流れを読むのが好きで、とても自然な感覚で次の展開を予想していたんだよ。で、実際にその読みが外れることはまずなかった……(笑)。必然的にチームメイトへの指示も高い確率で的を外さなかったんだよ。とにかく〝客観的〟に展開を見ていたということだね。

 ただ、当時、いわゆる“10番”は名将になれない、と言われていて、それが半ば定説と化していた。要するに余りに独善的、過度に〝インディビジュアリスト〟であるがために組織を束ねるための資質は持ち合わせていない、と。だからこそ思ったわけだよ。『OK、ならばこの俺がその定説とやらを覆してみせる』とね」

――“10番”が後に名将たり得た事実は極端に少ない。

「確かに。でも僕には少なからず自信があった。なぜなら、さっきも言ったように早くからピッチを俯瞰する感覚を持つと自負していたからね。確かに世の10番たちと同じように魅せる技に自信とこだわりを持って、機をみては技を披露していた。だけど常に僕は最も重要なことを忘れなかったんだよ。それは、要するに『どんなに華麗な技も、それが味方の攻撃の流れを阻むものであっては何ら意味がない』と。この僕も10番として常に組織の一歯車であるという自覚を失うことはなかった。だからこそ一定の自信があったんだよ」

――そんなあなたが範としたのは?

「ボスコフ(ヴヤディン・ボシュコヴ)。90年、あのサンプドリアをスクデット獲得に導き、翌年にはあわやCL制覇をも成そうかというところにまでチームを導いた監督。偉大な指揮官であり、なにより彼は実に偉大な人間だった。あの人ほど尊敬できる監督は他にいないと言えるだろうね」

――そして、もうひとり。

「(スヴェン・ゴラン・)エリクソン。彼の下で僕は『助監督』を務め、実に多くのことを学ばせてもらった。そして後に、シニーザ(・ミハイロビッチ)が同じように、この僕の元で経験を積んで独立したわけだ。それはサンプドリアでボスコフの指揮下に身を置いた成果だと言えるのだろう」

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