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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(前編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada


リーグ制覇を成し遂げたマンチェスター・シティとマンチーニ【写真:山田一仁】

ミスター、あなたは本当に昔10番やっていたんですか?

――監督としてはやはりエリクソンからより多くの影響を受けているように思われます。

「その通りだね。エリクソンもボスコフと同じように実に攻撃的なサッカーを嗜好していたんだが、前者は後者に比べてよりバランスの取れたサッカーをしていたと言えるはずだからね。元々エリクソンは『アリゴ・サッキ』的サッカーが戦術の柱だったんだが、サッキほど厳格な規律を求める監督ではなかった。もちろん組織を優先しながら、しかし個の独創性の発露を彼は決して否定しなかったんだよ。

 そのエリクソンの4-4-2、これで僕もスタートし、以来ずっとこの形をベースにキャリアを重ねてきた。結果、監督マンチーニのチームも『攻撃的過ぎず、かつ守備的に過ぎることもない』。つまり、それはほとんど理想に近い域で(攻守の)“バランス”が取れていることを意味する。仮にその理想なるものにまだ相応の距離があるとしても、常にマンチーニ率いるチームは完璧なバランスの追求に努め続けている。これが、一定の戦績を残し得た最大の理由だと思う。

 もちろん、そのバランスを高いレベルに引き上げるには、やはり大前提として守備のメカニズムを確立させておく必要がある。足場を固めずして高く飛ぶことはできないからね。したがって日々のトレーニングでも多くの時間を割くわけだが、その度にマリオ(・バロテッリ)が僕にこう言うんだよ。

『ミスター、あんたは本当に昔10番やってたんですか?』とね……。

 確かにこの僕も若い頃は守備のどうのこうのが分からなくてね、そのためのトレーニングは実に退屈だったし、それこそ時間の無駄とさえ思ったものなんだが……。まぁ人は誰しも時を経れば成長するということだね(笑)。つまり、まだ余りに若いあのマリオが理解できないのも致し方なし、と思うわけだよ。むしろ、かつての自分がそうだったからこそ、若い選手たちの胸の内も手に取るように分かる。だから、この僕も彼らの感性を、独創性の発露を決して否定するなんてことはしないんだよ」

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