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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(前編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

「夢にまで見た」イングランドサッカー

――ただ、やはり思い出されるのは就任2年目、11年のFAカップ制覇。あの勝利なくして今日に続く結果はなかったとも言われています。

「それは04-05シーズン当時とよく似ていたと言えるのだろうね。05年、つまりこの僕がインテル監督に就任した当時、クラブは長く勝てない時代の途中にあったわけなんだが、そこには言ってみれば“負け癖”なるものが染み付いていてね。これを払拭するのは容易ではなかったんだよ。でも当時のインテルはその05年にイタリア杯(コッパ・イタリア)を勝つと、これが起爆剤となってチームのムードは劇的に変化していた。

 勝利の味を知った選手たちは後のスクデット獲得を、連覇を可能にすることになるんだよ。それと同じように、確かにあのFAカップがシティに与えた影響は実に大きかった。そして昨季のスクデット獲得へ。なにせFAカップは35年ぶりのタイトルで、スクデットに至っては44年ぶりだったのだからね。チームだけじゃなく、この我々を囲む環境すべてに新しい何かを芽生えさせたんだと思っている」

――現シティを指して、ナスリはこう語ったと言います。「マンチーニのお陰で自分たちは、“勝利のメンタリティ”を得ることができた」と。

「そう言ってくれたとすれば、本当に嬉しいし、彼に感謝するよ。でも、やはり礼を言うべきはむしろこの僕の方でね。どんなに多く優れた選手たちが集まろうとも、気持ちがひとつにならずして強いチームにはなれないのだからね。ナスリはもちろん、全員がチームのために全力を尽くしてくれた。その結果として勝利があり、だからこそナスリの言うメンタリティを選手一人ひとりが自覚するようになったんだよ。勝ち方を覚えるのは簡単じゃない。だが、一度勝てば流れは変わる。そして今、シティは確かに正しい方向へと進んでいる。そう確信しているよ」

――端的に、あなたが「夢にまで見た」イングランドサッカーとは?

「ピッチ内外の区別が鮮明だってことかな。イタリアに比べれば遥かに小さくて済むとはいえ、それなりに重圧もかかるし、問題も決してゼロとは言えないんだが、基本的に『戦い』は週末の90分間で完結する。以降に無用の喧噪や軋轢が生じることも極端に少ない。だから我々は日曜日を終えると次の試合に向けたトレーニングに集中することができる。結果として、『プレッシャーは少ないが、魅せる要素に富む』、あるいは、『混乱は少なく、逆に見事なフェアプレーの精神に富む』。そんな風に言えるのだろうね。つまり、イタリアのそれとは180度、完全に異なるということだよ(笑)」

【後編に続く】

初出:欧州サッカー批評6

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