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Jリーグ 11年前

キングがヴェルディに残したもの~ともに歴史を築いた者たちの回想録~(前編)

text by 海江田哲朗 photo by Kenzaburo Matsuoka

チャンスが10回あったら10回とも決めていた

 それから5年後、カズはブラジルから帰国し、読売サッカークラブに加入する。背番号は武田が11番で、カズは24番を付けた。

 ともに静岡県出身のふたりだが、歩みは対象的だ。武田は清水東で全国制覇を成し遂げたスタープレーヤー。16歳で日本ユース代表、20歳で日本代表に選ばれたスーパーエリートだ。一方、カズはブラジルで鍛錬に励み、86年にサントスFCと初のプロ契約を結んだ。年齢はカズがひとつ上になる。

 鳴りもの入りで凱旋帰国を果たしたカズだったが、加入当初のシーズンは特筆すべき成績を残していない。個性派集団である読売クラブは、新時代のヒーローをそう易々とは受け入れなかった。

「自分も過去に体験したことですが、新入りにはまずパスが出てこない。ラモス瑠偉、戸塚哲也、都並敏史、クラブ生え抜きのメンバーは『よそから来た選手なんか認めないよ』と大っぴらに言っていましたから。技術的にはまったく問題なかったけれど、1年目はチームに溶け込めていなかったですね」

 やがてブラジル仕込みの実力を発揮し、92年に日本年間最優秀選手賞を受賞。93年はV川崎の優勝の立役者としてJリーグMVPを受賞した。

「周囲の信頼を得てパスが集まるようになったのは、結果を出したから。少ないチャンスを確実に決めていた。決定力はほぼ100%。シュートをミスしない。チャンスが10回あったら10回とも決めていた。自分にとってカズさんはライバルでしたけど、素直にすごいなと思ったものです」

 カズが練習に取り組む姿勢には目を見張るものがあった。ランニングからストレッチまで、すべてに全力を投じる。一切の妥協を排除していた。その姿勢は大ベテランとなった現在も貫かれている。

【中編に続く】

初出:フットボールサミット第4回

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