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松田直樹という生き方 ~第1回 トリコロール以外のユニフォームは着ないでくれ~

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

トリコロール以外のユニフォームは着ないでくれ


――最終節、ゴール裏のサポーターが松田コールをしていましたね。その後、サポーターがクラブの社長や強化スタッフを招いて、カンファレンスも行われています。それは、松田さんの戦力外通告という衝撃を受けて、そこまでサポーターが動いたわけですが、一連の流れについてご自身はどう捉えていらっしゃいますか?

松田 まあ、コールしてもらったことには感謝していますし、本当に嬉しかったです。会社に対しては、よくないことだったかもしれないけれど。その後の動きも情報は入っていたけど、もうクビ切られたのは事実だったので。次を探さなければならないし。

――サポーターからの言葉で、特に印象に残っているものはありますか?

松田 うーん、「トリコロール以外のユニフォームは着ないでくれ」って言われたんですよ、直接。その言葉が一番響いていて。自分でも(戦力外通告は)想像していなかったし、マリノスで引退するというのが自分では理想だったし。でも、もうしょうがないから。署名してもらっても、という感じなので、そこは複雑です。

――そのまま引退、ということは考えました?

松田 まあ、引退というのは一瞬だけ考えましたけど。「サッカーやめちゃおうかな」って、勢いで考えたことはありました。そしたら想像つかなくて。やっぱり「サッカーが好き」という気持ちは変わらなかったので。

――トリコロールのユニフォームを脱ぐこと以上に、サッカーをしていない自分を想像できなかったと。

松田 最後はそこですよね。やっぱり小学生のときの気持ち。兄貴がサッカーやっていて、毎日スパイクを履いて自転車に乗ったり、道路でボールを蹴ったり。今となってはマリノスの16年間よりも、純粋に「本当にへたくそだったよな、オレ」という、そっちのイメージのほうがすごく強くて。やっぱりサッカー好きだし、だったらサッカーを続けたいなと。

【第2回へ続く】

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