フットボールチャンネル

【名将インタビュー】サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~(前編)

text by 藤井重隆 By Shigetaka Fujii photo by Kazuhito Yamada

私のスタイルは誰にも真似できない

 第11節を終えた時点でのオプタによるスタッツを見てみると面白い事が分かる。ウェストハムはパス総数ではリーグ16位と少なく、30メートル以上のロングパスの数と成功率ではいずれも8位と4位で、相手のニューカッスルが群を抜いて首位を走っていたのだ。

 ニューカッスルもイングランド人のパーデュ監督の下、ロングボールやサイドからのクロス、空中戦やフィジカル勝負を主体とするサッカーを実践している。この試合ではまさに似たようなサッカーがぶつかり合ったが、本人は「似たスタイル」だとは思っていないようだ。

「同じようなスタイルを持つチームがいると良く言われるが、私のスタイルは誰にも真似できないし、私は誰の真似もしない。守備に重点を置き、相手に合わせて組織的に戦う点、選手たちの潜在能力を最大限に引き出す点では、ニューカッスルやストークと似通う点は確かにある。だが、ロングボールやクロスの質、空中戦での競り合いはどこよりも強いと思っている。我々はポゼッションも意識するが、セカンドボール(こぼれ球)やセットプレーからのゴールも重要視している」

 ロングボールを前線に上手く繋ぐことは容易ではないが、ボールがこぼれ球となる確率は高くなる。それを拾って繋ぐというのはイングランドの下部リーグにも浸透している伝統的スタイルであり、その極みを実践しているのがウェストハムを筆頭としたプレミアリーグのクラブだろう。

 トップ下のノーランはこのセカンドボールの処理に長けていることもあり、チーム最多の今季5得点を挙げている。ノーランと共にチームの要となっているのは、守備的MFとして中盤の底を支えるノーブルだ。ウェストハムの生え抜きでもある彼はニューカッスル戦後、監督のチーム戦術をこう説明している。

「監督は選手の心をつかむことが上手いし、組織的かつ緻密なプレーを要求していることが違いを生んでいる。無失点に抑える試合も増えたし、チームみんなが全力を尽くし、屈強な守備を見せている。何より選手がその戦術を楽しんでいる。監督は相手の長所と短所を分析し、セットプレーからのゴールにも重点を置く。練習でも入念に行うのは組織的な守備と、セットプレーやクロスによる攻撃だ。ロングボール主体のスタイルが批判されているけど、彼が僕に出す指示はボールを保持してパスを繋げということであり、ロングボールで攻めろとはひと言も言ったことはない。ウェストハムはエバートンのように毎年8位以内に入れる可能性を秘めたチームだ。それがクラブの目標でもある」

【後編に続く】

初出:欧州サッカー批評7

1 2 3

KANZENからのお知らせ

scroll top