【名将インタビュー】サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~(前編)

昇格組ながら32節を終えて12位とウェストハムが好調を維持している。特筆すべきは指揮官サム・アラダイスが採る戦術だ。前線にどんどんロングボールを放り込み、ファウル覚悟のタックルで相手を止める。パスサッカーがトレンドの時代になぜそこまでオールドスタイルにこだわるのか?ビッグ・サムに話を聞いた。

2013年04月17日(Wed)19時29分配信

text by 藤井重隆 By Shigetaka Fujii photo Kazuhito Yamada
Tags:

【欧州サッカー批評7】掲載 | 【後編はこちらから】

後退的と評されるが代表監督の候補になったことも

サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~
サム・アラダイス監督【写真:山田一仁】

 近年、プレミアリーグのサッカー界は外国人監督や選手たちで溢れ返り、地元イングランド人の活躍が影を潜めるようになった。現代サッカーがポゼッションを優先としたタッチ数の少ない素早いショートパス中心の戦術へと切り替わる中、母国に昔から根付く旧式の「ロングボール」と「フィジカル勝負」に一貫して固執し続けている監督が、現在プレミアリーグ第23節を終えて12位につけているウェストハムのサム・アラダイス監督だ。

 そんな彼は今、残り半年となった契約更新の交渉を進める一方、1月の移籍市場での補強や審判を批判してサッカー協会から受けた処分に異議を申し立てるなどしており、ピッチ外でも多忙を極めている。移籍期間中であるために補強に関する質問にはクラブ広報から規制がかけられたが、本誌の取材に快く応じてくれた。

 愛称ビッグ・サムの名で親しまれている彼が監督業を始めたのは、現役引退直後の91年のことで、頭角を現したのは99年から8年間指揮したボルトンだった。練習に中国の太極拳や競馬界の理学療法を取り入れたりするなどメディアの注目を集め、長期構想で独自の練習法を実践する姿勢は前向きであると評価される反面、ロングボールに固執した戦術は後退的とも評された。

 ボルトンでは、就任2年目にして当時2部だったクラブをプレミアリーグへ昇格させると、クラブと国内では歴代最長タイの10年契約を結んだ。その後、04年にリーグ杯準優勝、05年にキャリア最高位となるリーグ6位に入り、元日本代表MF中田英寿が在籍した06年にはUEFA杯(現EL)決勝トーナメント進出も果たした。その活躍が認められ、06年ドイツW杯直後にはイングランド代表後任有力候補にも名を連ねたほどだった。
 
 07年には栄冠を求めてニューカッスルへ移籍。大型補強で好スタートを切るかと思われたが、成績不振で僅か半年で解任の道を歩んだ。08年から再び中堅クラブのブラックバーンを指揮するが、2年半が経った冬に電撃解任。後に引き継いだ当時の助監督が裏でクラブ会長にアラダイスの悪態をついていたことが分かり、訴訟を起こす事態にまで発展した。20年以上に渡る監督生活で獲得した主要トロフィーはなく、一方で心臓病を患ったり、賄賂容疑にかけられるなど、荒波に揉まれるようにして、紆余曲折の人生を歩んだ。

1 2 3

新着記事

↑top