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【名将インタビュー】サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~(前編)

text by 藤井重隆 By Shigetaka Fujii photo by Kazuhito Yamada

クロスの本数はプレミアリーグ1位

 11年に当時2部だったウェストハムに就任した際、真っ先に記者から飛び出したのは「サム、あなたのロングボールを主体とするスタイルはここにも宿るのか」という質問だった。というのも、彼の固執したスタイルはファンやメディアから「保守的、古い、醜い」などと批判を受けていたためだ。

 そんな批判にも屈せず、ウェストハムでは就任1年目にしてプレーオフの末にチームをプレミアリーグへ昇格させたが、勝ち点3を取れない時にはコアなファンから容赦ないブーイングを受けていたという。2年目の今季は、開幕前に各ブックメーカーの降格オッズで断トツの1位と予想されるも、昇格組の中ではもちろんのこと、イングランド人監督の中でも最高成績を残しており、強豪クラブにも勝利するなど下馬評を覆している。

 アラダイスが過去20年以上の監督キャリアでこだわり続けてきたのが、攻撃ではロングボールからの空中戦で競り勝ってゴールを狙い、守備ではファウルで相手の突破を止めるという、イングランドの下部リーグにも浸透するスタイルだ。ファンやメディアの批判にも、本人は「結果のため」と開き直っている。

 チーム戦術は単純明快なものだが、改めて監督の口から説明してもらうことにしよう。

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徹底したフィジカル重視のフットボールを展開【写真:山田一仁】

「うちの布陣は4-2-3-1または4-4-1-1だが、1トップはコールとキャロルをローテーションさせている。常にまずボールを当てるのは彼らであり、そこから彼らをサポートするノーランに繋いで展開する。彼らの連携は素晴らしい。FW陣が思うように得点できていないのが残念だが、チーム最多の5点を決めているノーランの攻撃の組み立て方は流動的だし、ボックス内では状況を瞬時に把握する。彼は常に絶妙な位置取りとタイミングで動く。我々は1試合平均30本(実際のスタッツは28本)のクロスをボックス内へ入れ、その数はリーグの中でも上位だ(第23節を終えて首位)」

 アラダイスは、「今季最も内容が良かった2試合」として、古巣ニューカッスルに敵地で勝利した第11節と、ホームでチェルシーを下した第15節の試合を挙げた。

 ニューカッスル戦では前半38分、左サイドからロングクロスがファーポストに放り込まれ、そのこぼれ球を右エリア外からオブライエンがミドルシュート。これをファーポストのノーランが足で合わせて1-0で勝利。試合内容を見るとウェストハムは若干相手に本拠地優位の試合を進められ、全体的なスタッツでも上回られたが、ロングボールが生きたゴールとなった。

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