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【名将インタビュー】サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~(後編)

昇格組ながら32節を終えて12位とウェストハムが好調を維持している。特筆すべきは指揮官サム・アラダイスが採る戦術だ。前線にどんどんロングボールを放り込み、ファウル覚悟のタックルで相手を止める。パスサッカーがトレンドの時代になぜそこまでオールドスタイルにこだわるのか?ビッグ・サムに話を聞いた。

text by 藤井重隆 By Shigetaka Fujii photo by Kazuhito Yamada

【欧州サッカー批評7】掲載 | 【前編はこちらから】

ロングボールと共に重要なタックル戦術

【名将インタビュー】サム・アラダイス
サム・アラダイス監督【写真:山田一仁】

 もう一つ「良かった」としたチェルシー戦をアラダイスは「今季最高のパフォーマンスでの勝利」と振り返る。開始12分にスルーパスから崩されて失点した後、試合は均衡を保ったが、後半18分の同点ゴールは左サイドからのクロスが相手DFに当たって大きく弧を描くと、FWコールが相手DFイバノビッチとの空中戦を制して頭で決めた。後半41分の逆転ゴールも左サイドからニアポストに入ったクロスをコールが落とし、中央からMFディアメがゴール。終了間際にも相手のミスから得点して3-1で勝利した。

 ウェストハムはこの試合で、スタッツでも欧州王者のチェルシーを圧倒していた。シュート数では16本と同数だったものの、枠内へのシュート数とクロスの数では相手を上回った。このほか、試合を通して空中戦に競り勝った数は18回にも上り、そのうちエリア内では14回競り勝ち、その一つが同点ゴールとなった。CKの数もウェストハムの14本に対し、チェルシーは5本とセットプレーへの執着心も見せた。このほかに顕著だったのはファウル数である。チェルシーが1回だったのに対し、ウェストハムは15回だった。

 アラダイスはチェルシー戦について、「我々は周りが警戒するチームになっている。私の戦術が強豪を相手に上手く機能した試合だった」と振り返る一方、ファウルで相手の突破を食い止めたことに関しては、「我々は汚いプレーをしている訳ではない。10月のQPR戦では1試合に8枚のカード(リーグ史上最多)を受けてしまったが、我々はその点も改善したし、警告を受けるようなファウルは犯さないようにしている」と分析した。

 ファウル数に関しても興味深いスタッツがある。第23節を終えて、ウェストハムの1試合平均のファウル数は13回にも上り、似通うスタイルのストーク、エバートンと共にトップ3を占めている。

 チーム内で通算30回以上のファウルを記録しているのは中盤の底でプレーするノーブルとディアメのほか、ロングボールのターゲットとなるFWコールとノーランだ。前線の2人はゴール前で相手DFと競り合う際にファウルを犯し、中央MFの2人は相手の突破を食い止める際にファウルを犯している。

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