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【名将インタビュー】サム・アラダイス ~ポゼッションを破壊する揺るぎないロングボール戦術~(後編)

text by 藤井重隆 By Shigetaka Fujii photo by Kazuhito Yamada

ルール変更に落胆するサム

「正直、チームは予想以上の活躍を見せている」

 そう語るアラダイスは、「昇格1年目のクラブが最優先に置く課題は残留であり、それは我々も変わらないことだが、我々は10位以内を目指したいと思っている」と新たな目標を話した。

 ウェストハムは今季のリーグ杯とFA杯で、いずれも3回戦で敗退したが、裏を返せばリーグ戦に集中する環境が整ったことを意味する。アラダイスの伝統的戦術を基調としたスタイルはいまだ健在であり、強豪相手にも機能している事を示している。今季前半戦の失点数においても、首位を走るマンチェスター・ユナイテッドや上位のトッテナムに比べて少なかったこともチームの組織的守備が奏功していることを表した。

「プロの視点から見ても、近年、トップクラブの守備の質は低下している。その影響でゴール数が増加したというのも理由の一つだ。守備においては過去数年で改善は見られず低下した」

 このように分析するアラダイスは、バルセロナのティキタカ(パスサッカー)を模倣する現代サッカー界の風潮に異論を唱えた。

「アーセナルを見れば、バルセロナと同じことをするのは容易でないと分かる。最近のルール変更にはガッカリしている。以前許されていた質の高いタックルが簡単にファウルとなり、警告となる。残念なことにルールは攻撃側の選手を守りすぎるものになっている。イングランドのサッカー文化は献身的なプレーを好むし、素晴らしいパスやゴール同様に激しいタックルを観たがる人も多いはずだ」

 今季の目標を上位10位に食い込むこととしたアラダイスだが、「チームは自信を持ってプレーしているが、唯一の心配はけが人が多い事」と語る通り、年末にかけて主力選手に離脱者が多数出たことで、過去8試合で1勝のみと、今季最大の正念場を迎えている。

 1月の移籍市場では手薄となった守備の強化を掲げているが、クラブが約8000万ポンド(約112億円)負債を抱えている事もあり、冬の移籍市場に安価な選手を見つけるのは難しい。だが、守備が再び安定し直し、FW陣の得点力が上がれば、彼の持ち味であるロングボール戦術が再び対戦相手の脅威となるだろう。

【了】

初出:欧州サッカー批評7

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