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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉 「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第一回

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

 ファーガソンをよく知る過去現在の側近たちならいざ知らず、ほとんど公にされることがなかったこの“逸話”の数々を、「ミュンヘンの悲劇」直後からユナイテッド番になったベテランジャーナリストから聞いたとき、筆者は自分の直感が正しかったことを知った。

 それ以前、サー・アレックスとたった一度のみ言葉を交わす機会があった際、瞬間的にこう思ったのである。この人には“裏の顔”がある。ただし、それは表の顔を正当化するための周到な“伏線”であり、にもかかわらず、それこそが彼の本質なのではないか、と。

 だからこそ、一時は憎悪に近い感情とともに袂を分かったはずのOBたち――デイヴィッド・ベッカム、ヤープ・スタム、ルート・ファン・ニステルローイ、ロイ・キーンらが、声をそろえてサー・アレックスの“父なる肖像”を称え、懐かしむのだろう。

「スコットランドからの人でなしが、今そっちに向かってるからな」

 知られざるエピソードの一つにこんなものがある。

 レスター在住で長年のユナイテッドファンとして知られる“老女”アリスが、100歳の誕生日を迎えた当日、彼女は思いがけないアレックス・ファーガソンの祝賀訪問を受けて、夢かと感激した。その直後、女王エリザベス二世から届いた電報の「お顔を拝見しに伺えないのは残念ですけど」(当然だ)に、彼女は急いでこう返事をしたためたという。

「どうぞお気遣いなく、女王陛下。アレックスがきてくれていますから!」

 また、ある老ジャーナリストがガンに倒れて入院したその日、病室にはあらかじめファーガソンよりの花束が届けられていた。それだけではない。手術を終えてようやく回復期に入ったある日の午後、彼は突然の電話を受けた。

 そして、流れてきたファーギーの声に思わず苦笑したという。「スコットランドからの人でなしが、今そっちに向かってるからな」そして励ましの言葉が続いた。

「あんたなら大丈夫だ」

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