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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉 「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第一回

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

彼は徹底的に何もかも調べつくす

 以上は数ある“ファーギーズ・トリック”のほんの一部にすぎない。ひょっとして彼は、そんな風に人をいたわり、あるいは、ふさわしいジョークにくるんだ“突き放し方”で驚かせ、苦笑させるタネがどこかにないかと、いつも飢えているのかもしれない。

 まるで、いたずら小僧のように。そうやっていつの間にか人の心に入り込み、丸め込んでしまうことを、無上の楽しみにしている――。

 その“原資”として、彼は徹底的に何もかも調べつくす。クラブの歴史、そこに隠された秘話、誰と誰がどうかかわったか、何等かの害を成したならそれは何ゆえだったのか、今それらがどんな因果をクラブ周辺にもたらしているのか・・・・。

 彼はクラブに関わった、関わっている、これから関わることになる人間のすべてを、可能な限り知りたいと願う。ベッカムは今でも忘れない。11歳で憧れのユナイテッドと予備契約を結ぶ日が来て晴れてサインをした直後、ふらっと現れたファーガソンに声をかけられて目を皿にした、そのときのことを。

「確か君の誕生日は○月○日だったね、親父さんは○○を、お袋さんは○○で、兄弟姉妹は・・・・」

 というわけで、これまでそこそこに密な経緯でサー・アレックスとマン・ユナイテッドに関わってきた縁(えにし)から、今後数回に分けてファーガソンという為人(ひととなり)を語る機会をいただいた。

 微力でそそくさながら、できれば今までめったに語られることがめったになかった逸話も掘り起こしつつ、改めてファーガソンの実像に少しなりとも迫ることができれば幸いである。

 彼はどこにでもいた。そしてこれからも、どこにでもいる。アレグザンダー・チャップマン・ファーガソン、御年71歳。どう考えても一筋縄ではいかない、厄介なお人だ。

【第二回に続く】

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