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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉 「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第一回

今季で勇退し、27年間にもおよぶマンチェスター・ユナイテッドでの監督生活に別れを告げたサー・アレックス・ファーガソン。彼の栄光の足跡と知られざる実像に迫る。

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

【第二回はこちらから】

「出過ぎる杭」を地で行く半生

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カップを掲げる、サー・アレックス【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】

 最近、たまたまにしろ、よく「出る杭は」云々のフレーズを目にしたり耳にしたりする。「出る杭は打たれる」とは「あまり目立たず、ほどほどに生きたほうがいい」という戒めというが、ひょっとしたらこのご時世、ようやくこの言葉の嘘っぽさ、あるいは“からくり”に、人々が気づき始めたのかもしれない。

 例えばある人は、それを実にあざとい“言い訳”の文句だとする。ネガティヴな人間がネガティヴなシーンで好んで使うネガティヴなフレーズなのだ、と。

 また、かの松下幸之助は「出る杭になるな、出過ぎる杭になれ」とも言った――。

 その先の因果や咀嚼の仕方の続きはあえて読者諸氏の想像力に委ねよう。ここで言いたいのは、先頃、27年間近くにも及ぶマンチェスター・ユナイテッドの監督職を勇退した「ファーギー」こと、サー・アレックス・ファーガソンこそ、文字通りに「出過ぎる杭」を地で行く半生を送ってきた典型的人物ではないかということである。

 しかも、彼はそのほとんどを、単に強い克己心と上昇志向を元手にしてのみならず、半ば無意識の本能的な、そのための「智恵」と「他者への気遣い」の上に立って、築いてきたと考えられるのだ。

 かつて、老練GKジム・レイトンをFAカップ・リプレーのメンバーから外し、この誇り高いスコットランド代表キーパーを世を儚むほど悲しませ、失意の引退に追い込んだほどに、怒れる非情の指揮官として名を馳せたファーギーだが、彼の立場ではそうする理由があり、それ以上に、あらかじめ陰に陽に提示してきた“前振り”の人心掌握術があった。

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