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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第二回

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

ファーガソンを地面にたたき伏せた男

 そのエピソードのいくつかは拙著『マンU』(NHK出版)でも触れたが、天晴とも評すべき象徴的事件が起きたのは、1983年のカップ・ファイナルでレインジャーズを1-0と下した直後のことである。

 すでにTV局のインタヴューで“痛烈な反省”を口にしていたファーガソンは、優勝に浮かれ騒いでいたドレッシングルームに入るや否や雷を落とし、プレーヤー個々の「不出来、不首尾、愚かさ」をくどくどと微細に指摘して、部屋中を凍り付かせたのだった。アバディーンがカップウィナーズカップ決勝で大敵レアル・マドリードを破ったのは、その10日後のことである。

 そのレアル戦、開始7分に先制ゴールを決めた当時20歳のエリック・ブラックが回顧する。「怖い人でね。しかも、それを骨の髄までぼくらに思い知らさないと気が済まない。彼の下では常に上を目指す努力を続けるしかないんだ。さもないと“消されて”しまう」

 また、おそらく史上ただ一人、衆人環視の中で罵倒されてファーガソンに食ってかかり、地面にたたき伏せた武勇伝を持つフランク・マクドゥーガルは「カップ戦の準々決勝途中で怪我をして退場した試合の後のことだ。たるんでるからそんなことになる、と口汚くどやされて完全にキレちゃってね。後で死ぬほど後悔したんだけど」と笑って懐かしむ。

 そのとき、監督はさっと跳ね起きると、改めて反逆した男の「許されざる油断」を責め、反省を促したという。しばらくして深く謝罪したマクドゥーガルは、その後ファーギー・アバディーンきってのエースFWとして歴史に名をとどめている。

そして、現在ブラジルにてスポーツエージェンシーを営む彼はこう締めくくった。「ファーギーの下でプレーできたことはわたしの人生最大の幸運だった。それだけは神に誓って間違いない」

【第三回に続く】

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