フットボールチャンネル

Jリーグ 11年前

日本ハムファイターズ アドバイザー藤井純一が説く プロスポーツの経営論(後編)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

競技の枠を超えた経営理念とは?

 昨年、ファイターズの社長を退任した藤井は、母校の近畿大学経営学部で、学生たちにスポーツビジネスを教えている。Jクラブとプロ野球チーム、両方の経営に知悉(ちしつ)する彼の講義は、学生の間でも非常に人気があると聞いている。ここであらためて、今回のインタビューのテーマを、当人にぶつけてみたい。クラブ経営と球団経営に、大きな違いはあるのだろうか?

「まったく一緒ですね。お客さんに来てもらって、その中で運営するという意味で、スポーツビジネスは(競技に関係なく)一緒だと思います。まずは経営を大事にすること。勝ち負けは二の次でええ。『勝てば最高のファンサービス』と言いますが、僕はそうは思いません。継続してチームを存続させることが、社長としての最大の任務。そのためには、数字が第一だと思っています」

 徹底した「経営第一主義」を貫いたからこそ、職場が変わっても藤井に迷いはなかった。だからと言って、数字のみを追求してきたわけではもちろんない。そこには当然ながら、地域住民の支持という要素が不可欠である。

「われわれの場合、大阪であれ、北海道であれ、地域の人から『来てください』と言っていただいたわけではない。勝手に『ここをホームタウンにします』と宣言しただけに過ぎないんです。だからこそ、地域の皆さまに愛されて、支持されるチームにならないといけない。『地域に愛され、必要とされる存在となるためには、何をしなければならないか』ということを、常に考える必要があります」

 特定のスター選手や勝敗に依存しない、安定した集客。そして、それを下支えするファンサービス。それらはいずれも、12年前にバイエルン・ミュンヘンから学んだことである。

 とりわけ藤井の記憶に刻まれたのが「地域から愛されて、初めてクラブ経営は成り立つ」という、ウリ・ヘーネスの言葉であった。その理念は、サッカーであろうが野球であろうが、大阪であろうが北海道であろうが、さらに言えばクラブであろうが球団であろうが、まったく変わることはなかったのである。

 それにしても、と私は思う。

 ドイツの名門クラブの経営理念が、海を超え、競技の枠を超えて、日本のプロ野球経営にも生かされている――。サッカーファンにとって、何と痛快な話であろうか!(文中敬称略)

【了】

プロフィール

藤井 純一(ふじい・じゅんいち)
1949年生まれ、兵庫県出身。近畿大学農学部水産学科卒業後、日本ハムに入社。京都・奈良の営業所に勤務、その後、本社へ。営業企画、広告宣伝を経て、1997年、Jリーグのセレッソ大阪取締役事業本部長、00年に同社代表取締役社長に就任。05年に株式会社北海道日本ハムファイターズ常務執行役員事業本部長に。翌年より代表取締役社長。現在は近畿大学経営学部教授、日本ハムファイターズ アドバイザーを務める。

初出:サッカー批評issue60

1 2 3

KANZENからのお知らせ

scroll top