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Jリーグ 11年前

封印された岡山劇場(後編)

text by 後藤勝 photo by Kenzaburo Matsuoka

来季の契約がないのはわかっていたけど、言えなかったさよなら

――サポーターとシンクロしている選手の代表格のような岡山さんが、彼らの思いを受けとめきれず、いまだに整理できていないというのは驚きです。

岡山 「行け札幌 仲間信じ 最後まで戦え」

 コンサドーレにはこういうチャントがあります。おれは最後まで、戦えなかった。それはずっと心残りです。こうして話しているのは、自分のなかで、コンサドーレで感じたことをまとめたいからでもあるんです。

 ホーム最終戦の前節の試合前にはサポーターを盛り上げることもせず、ホーム最終戦に到っては逃げました。あの試合、ケガや選手のモチベーションもあってディフェンス登録の選手はサブにも入っていない状態だった。戦術の部分もあるけれども、おれは逃げてサブメンバー入りしなかった。その資格がないと思いました。逃げたんよ、おれは。もうあと少しだからがんばって試合に加わればよかったんじゃないか、と言われるかもしれないけれども、無理だった。

 一昨年、J1昇格を決めたシーズンのあと、コンサドーレには契約できないと言われても仕方がないと思っていました。ところが、「試合に出ていなくとも、それ以外の部分をプラスとして考えているから現状維持で契約してほしい」と言われたときに、クラブに対して感謝の気持ち以外になかったんですよ。それが……。

 ホーム最終戦の前に来季の契約がないのはわかっていたけど、さよならと言えなかった。心のなかでありがとう、ごめんなさいとは言いました。でもいつものように、みんなに言葉を投げかけることはできなかった。そのときから逃げている。そこはサポーターに対してケジメをつけないとサッカーは続けられない。だからトライアウトも行かなかったし、テストも受けていない。そのくらい、コンサドーレで経験したことはまだ整理できていない。いまもまだ、解決しないままなんです。

 異国の地でJクラブサポーターの重要性を思い知った岡山は、その声援を受けられる舞台へと戻ってきた。しかしサポーターの思いを受けとめられるだろうとの自信は、残留争いの果ての早期降格決定という現実の前に、大きく揺らいでしまった。

 岡山劇場の主にしてなお、容易に引きうけられるものではないサポーターの熱き思い。簡単には理解しえない深みがあるからこそ、ピッチ上の歓喜も、より大きなものとなるのだろうか。岡山の苦悩は、サッカーの豊かさの裏返しであるのかもしれない。

【了】

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