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Jリーグ 11年前

手倉森誠監督の覚悟――6年目を迎えるテグ流マネジメントの真髄(後編)

text by 戸塚啓 photo by Kenzaburo Matsuoka

向上心のある姿勢、変える力の必要性

 クラブ全体の骨組みから立て直し、あまつさえ優勝争いを演じるまでに押し上げたチーム作りは、多面的なマネジメントの賜物である。6年という長い歳月を費やしたのは事実としても、手倉森は一日たりとも無駄にしていない。継続性という言葉の裏側には、たゆみなく辛抱強い積み重ねがある。

 同じことはフロントにも言える。J1での経験や現役時代の知名度、あるいは海外での実績を重視した監督人事から脱却し、なおかつ拙速をとうとばなかったことも、J1優勝を狙える地力を蓄えることにつながった。

「J1での1年目に解任騒動もあったけど(笑)、5年でACLに出ると言った自分を信じてくれた人たちがいていまがある。J1での1年目に14戦連続で勝てなくても、チームはバラバラにならなかった。この経験は絶対に生きてくる、今後につながる、それがクラブのマネジメントなんだ、という話を聞いてくれた。一体感を持って戦おうという僕の思いがフロントにも伝わってきたから、ここまでやらせてもらっていると思う」

 大企業の支援を受けないベガルタの経営体質が、根本的かつ劇的に変わるとは考えにくい。浦和や名古屋のようなメガクラブとは、資金力において埋めがたい差が横たわる。

 そうしたものを理解したうえで、手倉森はベガルタを馴致させている。諦念が心を占めることはない。

「正直に明かせば、1年でクビになるのはイヤだな、恥ずかしいな、そうなったら二度と監督になれないかもしれないな、と考えることもありました。でも、いまはいつ辞めることになってもいい覚悟を持っている。そうするとね、思い切った仕事ができるんですよ。迷いがなくなる。自分がそういう気持ちでなければ、選手に『思い切ってやれ』と言っても伝わらないですから」

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