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連載コラム 10年前

W杯前に知っておくべきブラジルフッチボール。ドゥンガが支援した貧民街の現実

知らず知らずのうちに犯罪組織に取り込まれる子どもたち

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ブラジルの子供達【写真:田崎健太】

 貧民街はブラジルのどの大都市周辺にも広がっている。

 生活に困った人たちが地方から都市に集まる。しかし、手に職のない人、学歴のない人間が仕事を見つけることは難しい。彼らはやむなく空いている土地に不法占拠をして、バラック小屋を建てて住んだ。それが各地で常態化、拡大している。

 貧困は暴力と結びつきやすい。

 2002年にブラジルで『シティ・オブ・ゴッド』という映画が公開された。リオ・デ・ジャネイロの貧民街を舞台とした新興マフィアを描いた作品だ。年端の行かない少年たちが、麻薬を扱い、殺し合う。

 これはブラジルの現実だ。

『トラフィカンテ』と呼ばれるブラジルの新興マフィアたちの勢力争いは多数の犠牲者を生み出した。身元不明にするため、首を切り落とした死体が見つかったという記事が日常となっていた時期もあった。彼らは、数百ドルの報酬で人を殺すという。

 貧民街でまともに子どもを育てるのは困難だ。

 トラフィカンテは少年たちに簡単な手伝いをさせて、多めの小遣いを渡す。少年たちは年上の先輩たちに心を許し、次第に重要な仕事を任されるようになる。気がつくと、組織の中に取り込まれている。

 暴力という種子は、貧困という栄養を得て茎を勢いよく伸ばし、都市に絡みつく。そして、次々と新たな種をまき散らしているのだ――。

 ドゥンガはこの連鎖を食い止められると信じている。

 彼には忘れられないクリスマスの思い出がある。

 施設の子供たちとクリスマスのお祝いをするために、マクドナルドに出かけたことがあった。マクドナルドは彼らにとっては、憧れの場所であった。そのためクリスマスの食事場所に選んだのだった。

【次ページ】突然振りかかる不幸
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