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震災を乗り越え全国大会へ。バラバラになった生徒たちを結んだ富岡高校サッカー部が作った絆

text by 川端暁彦 photo by Akihiko Kawabata

接点少なくなりがちな生徒たち。サッカー部が作った結節点

 強い思いは選手の背中を押すものだが、押しすぎれば気負いになる。勝負事の世界ではそれがマイナスへ作用することは、少なくない。実際、ここ2年の富岡にその傾向があったことは佐藤監督も感じていたという。

「今年は余り(震災に関することは)言わないようにしていた。でも、言わなくてもみんな分かっている。そう感じていましたから」と静かに笑顔を浮かべる。代わって監督が強調したのは「笑顔」だったという。

「とにかくリラックスさせようと思っていた」という佐藤監督の決勝戦前の振る舞いについて、選手たちは「なんだかしきりに和ませようとしてくれていた」と笑う。

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もみくちゃに抱き合う選手、スタッフ【写真:川端暁彦】

 そんな指揮官の少し不器用な気遣いに感謝しながら決戦に臨んだ富岡高校は、「間違いなく全国レベル」(佐藤監督)の尚志高校を相手に奮闘する。立ち上がりから富岡らしい小気味良くパスを回すサッカーを貫くと、最後は相手の抵抗を振り切り、2-1で競り勝ってみせた。

 終了のホイッスルと同時にベンチから一斉に飛び出す選手たち。スタッフ含めてもみくちゃに抱き合う。高瀬主将はベンチに駆け寄り、貝塚さんの写真を天高く掲げてみせた。入学直前に震災の惨禍に遭遇したいまの富岡高校の生徒は、「富岡高校に通った記憶」というものがまるでない。

 生徒たちはバラバラの高校に通い、まるで異なる生活を送っていて、その接点はどうしても乏しくなっていく。だが、その一つの結節点をサッカー部が作ってみせた。表彰式を終えて在校生とOBが待つスタンドに一直線で駆け寄り、喜びを分かち合う姿が、それを象徴していた。

【了】

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