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サッカー本の「診察室」を開いた理由。『夢想するサッカー狂の書斎 ぼくの採点表から』佐山一郎氏インタビュー(その3)

text by 宇都宮徹壱 photo by Tetsuichi Utsunomiya

知的でタフなノンフィクションの時代が日本にもあった

──佐山さんはサッカー以外も、さまざまな書評をお書きになっていますよね。今、野球の話が出ましたけれど、サッカーライティングの特殊性といったものについては、どのあたりにお感じになりますか?

佐山 特殊性……。僕はね、新聞記者のサッカーの原稿は、実にもう潤いを感じないのね。万人共通、簡潔明瞭を旨とするじゃ、作品化は無理だろうと。

──80年代のサッカー専門誌を読み返してみても、今と明らかに文体が違っていて、まさに新聞記者っぽいですよね

佐山 一方で80年代には、アメリカのノンフィクションを範とする、僕は「リテラシージャーナリズム」って言っているんですけど、そういう知的でタフなノンフィクションの時代が日本にもあったんですよね。

 で、彼らのほとんどが自分より年上の人たちで、担当していた猪瀬直樹さんだとか、近年、物議をかもした佐野眞一さんだとかが比較的近い所にいたんです。その人たちより人気、実力で先行したのが沢木耕太郎さんだったんです。ただ、さわやか万年青年の沢木さんほど同業者のジェラシーを浴びた人もいないというくらいでね。

──そんな中、佐山さんご自身はスポーツを書くことに関しては、すんなり入っていけた感じだったんですか?

佐山 うーん、それこそ野球なんかは、スイスイ書けて褒められもしたんですよ。でもサッカーはそうでもなくて、上手く書けないなと思った時に「心の師匠」となったのが、同い年の後藤健生だったんです。彼が書いている文章だけが、世界的スタンダードをいっているなっていうことにすぐ気づきました。あと僕の場合は、やはり編集者に恵まれていたというのがありますね。

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