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バルサは伝統を捨てたのか? 経営面から見る胸スポンサーを導入せざるを得なかった理由

text by 小澤一郎 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

バルサのグローバル戦略

 さらに、1995年のボスマン判決により移籍が活発化すると、テレビ放映権料で得た潤沢な資金を基に世界的なスター選手を獲得するクラブが増えていった。それに応じて、選手の移籍金や年棒の金額も高騰し、結果としてクラブの経営を圧迫するようになる。

 バルサも例外ではなく、2009-10シーズンの決算報告によると、クラブの負債は4億3100万ユーロ(約565億円、当時の年間平均レート。以下同様)まで膨らんでいる。経営難のクラブが増加することで、各クラブは会費、チケット、テレビ放映権料に加え、4つ目の収益源としてマーケティングに目をつけ始めていく。

 基本的にはスポンサー料やマーチャンダイジング(関連商品の販売)、国外ツアーを実施することにより発生する収入で、傾いた経営の修正を目指していった。このように、マーケティングに力を入れ始めたクラブが増えることで、サッカーは現在のようなグローバルビジネスへと変化を遂げていく。

 バルサの経営においてもグローバル戦略が採用され、世界中にバルセロニスタが存在するようになる。それに伴い、自らのクラブ理念である「クラブ以上の存在」を世界中に浸透させる必要性が生まれてきた。

 そのため、クラブはまずバルサというクラブの位置づけを分析した。その際、当時のコミュニケーション・マネージャーであるジョルディ・バディアを中心に、2つの柱が発表された。

 1つ目は「スペクタクルなサッカー、つまり興奮に満ちた美しいサッカーをすること」。2つ目は「スポーツと平和の普遍的な価値を伝えながら、世界をより良い環境に改善するために貢献していくこと」。

 1つ目の柱に関してはクライフやマラドーナ、ロナウジーニョのプレーに連想されるように、ソシオや選手たちによく理解されたものの、2つ目の柱はなかなか浸透しなかった。そこで、この理念を多くの人に認識してもらうため、よりわかりやすい視覚的効果を狙ってユニフォームのスペースを利用することに決めたのだった。

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