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ブラジルW杯唯一の初出場、ボスニア。祖国を窮地から救ったオシムはベテランの復帰を提言

ブラジルW杯で唯一となる初出場の国がボスニア・ヘルツェゴビナだ。新参ではあるが、ジェコ、ピャニッチなど欧州サッカーでは馴染みのタレントが揃う。勝ち抜くためにはさらなる成長が必要だが、かつて祖国を窮地から救ったオシムはベテランの復帰を提言する。

text by 長束恭行 photo by Yasuyuki Nagatsuka

ムスリム人、セルビア人、クロアチア人による「人工」国家

 NOGOMETNI/FUDBALSKI SAVEZ BOSNE I HERCEGOVINE

ブラジルW杯唯一の初出場、ボスニア。祖国を窮地から救ったオシムはベテランの復帰を提言
ボスニア・ヘルツェゴビナ基本フォーメーション

 これが「ボスニア・ヘルツェゴビナ・サッカー協会」の現地語表記だ。長い国名のせいで、日本では北部地域の「ボスニア」のみが一般使用されるが、地元では「BiH」(発音はベー・イー・ハー)と略される。

 ちなみにボスニア・ヘルツェゴビナ・サッカー協会を略すと「NS/FS BiH」。「サッカー」という単語はセルビア語(fudbal)とクロアチア語(nogomet)で異なるため、サッカー協会も略称だろうと二ヶ国語を併記しなくてはならない。

 ボスニア語? 90年代にユーゴスラビアが崩壊し、ボスニア・ヘルツェゴビナが建国するまで、独立言語としてのボスニア語など公式に存在していなかった…。

 ここまでの内容を理解した人は少なからずボスニア事情をかじった方で、ほとんどの人がチンプンカンプンだろう。ボスニアはムスリム人、セルビア人、クロアチア人による「人工」国家だ。それだけにサッカー協会の表記一つを取っても、この国の複雑さが垣間見える。

 例えば、南部地域のヘルツェゴビナに住むクロアチア人は、本国以上にクロアチア愛国主義が強い。代表戦となれば、クロアチア国旗にシロキ・ブリイェグ、リュブシュキ、リヴノ(クロアチア代表監督コヴァチのルーツ)など、クロアチア人が大多数を占めるヘルツェゴビナの地名入りの横断幕がずらりと並ぶ。

 まだボスニア・サッカー協会が三民族による会長三人制を敷いていた2009年、私は首都サラエボでセルビア人会長にインタビューしたことがある。「今の体制は三民族が共存する上で利に適っている」と強調する傍ら、彼の携帯には「セルビア代表のチケットを融通してくれないか」と懇願するボスニア在住のセルビア人の電話が何本も掛かってきた。

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