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あなたが観ている試合には“台本”があるかもしれない(中編)

なぜ八百長はなくならないのか? ベストセラー『黒いワールドカップ』で八百長問題を丹念に調査した著者が再び筆をとり、最新事情をレポートする。(翻訳:山田敏弘)※2013年8月時点

text by デクラン・ヒル photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Masahiro Nagasawa

【前編はこちらから】 | 【後編はこちらから】 | 【欧州サッカー批評issue08】掲載

ユース年代の小さな大会も違法賭博の対象に

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【写真:長沢正博】

 アジアのスポーツ界における汚職の深刻さを最もよく示しているのは、2005年の東南アジア競技大会でのエピソードだろう。東南アジア競技大会は、同地域のミニオリンピックのようなもので、さまざまな競技やチームスポーツの試合が行われる。2005年11月、トーナメントが開催される数日前に、ベトナムのチーム代表団幹部が記者会見を開いた。そこでベトナム人のジャーナリストが、あまりいい選手がどの競技でも揃っていないためにメダルをたくさん獲得するのは無理ではないか、という質問を投げかけた。するとその幹部はこう答えた。

「心配することはない。すべて結果は決まっているのだから」

 さらに彼は各国のチームが事前に集まり、どの国のチームがどの競技でいくつのメダルを取るかを決めてあるとまで語ったのだ。ベトナムの報道陣のほとんどは、社会主義政権を自由思想と民主主義に対する砦にする精神を貫こうとしたのかどうかは分からないが、とにかくその話は一切報道しなかった。しかし、その会見に出席していたAFP通信の記者がそれを記事にした。記事は世界中に配信され、それを読んだフィリピンのジャーナリストたちはその配信記事を一面に掲載した。すると瞬く間に騒ぎになった。

 タイのタクシン・シナワット首相(当時)は、記者会見でこれについて尋ねられると、東南アジア競技大会の試合で不正が行われているのは自明のことで、大会の廃止を検討すべきだとしぶしぶ答えざるを得なかった。

 大恥をかかされたベトナム政府は、事態を注視し、その問題の原因を突き止めた――といっても政府が対策に乗り出したのは八百長そのものではなく、AFPの記者だった。政府は記者に対して記事を撤回するよう圧力をかけた。その記事を配信した女性記者は「国家の恥になるような事態を引き起こした」ことについては謝罪したが、記事の内容は撤回しなかった。

 そして2005年12月、東南アジア競技大会の終わりに2つのことが起きた。ひとつは、メダル獲得数がベトナムのチーム代表団幹部が予測した数とまったく同じだと、フィリピンのジャーナリストの多くが嬉々として指摘したこと。もうひとつは、サッカーのベトナムチームの選手8人が、国際的な賭博組織と組んで八百長に加担したかどで逮捕されたことだった。

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