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あなたが観ている試合には“台本”があるかもしれない(中編)

text by デクラン・ヒル photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Masahiro Nagasawa

不正をヨーロッパのリーグへ移そうとする人たち

 アジアのスポーツファンは馬鹿ではない。彼らは地元のリーグで何が起きているかはっきりと認識している。スポーツ界に広がる汚職について不満に思っているし、実際にはとても怒っている。そうして彼らは、不正が行われていないと思われる別のリーグを見るようになる。八百長試合と分かっていて気持ちを入れて応援できるはずがない。中国の通りを歩いていて、マンチェスター・ユナイテッドやNBAのTシャツを着ている人をよく見かけるのには、そんな理由もある。

 しかし、なにより重大なのは、アジアの違法賭博リーグのギャンブラーたちが、不正に満ちた賭けの対象を地元のサッカーリーグから、ヨーロッパのリーグへと移していることだ。彼らは、チャンピオンズリーグのビッグマッチから、オランダ女子サッカーの二部リーグのマイナーな試合にいたるまで、あらゆる試合で賭けを行っている。

 世界には、サッカーの試合にモニター役を配備する会社が数多く存在する。モニター役は試合会場に赴き、携帯やノートパソンを使って、上海やマレーシアのジョホールバル、フィリピンのマニラに存在する違法賭博市場に試合の経過を連絡する。繰り返しになるが、彼らはプレミアリーグやリーガ・エスパニョーラ、セリエAなどのビックマッチだけを扱っているわけではない。

 2008年7月、デンマークのコペンハーゲンでは年に一度のチボリカップが開催されていた。チボリカップはデンマーク国内の11歳~19歳の選手が出場するユーストーナメントだ。大きな大会ではあるが、ほとんどの試合は公園で行われ、観客は選手の家族ばかりで、20~30人程度にすぎない。しかしその年の大会では、出場チームの複数のコーチが、中国人の賭博モニターが試合経過を賭博市場に連絡している姿を目撃した。アジアの違法賭博市場は、デンマークの公園で行われている試合をモニターする価値があるほど強大なのだ。

 私がさまざまな国のジャーナリストから頻繁に取材などの電話を受けるのはそのためだ。ベルギー、フィンランド、ドイツ、スイス、韓国……みな同じ質問を投げかける。

「私たちの国のリーグは小規模で、取るに足らない試合だ。私たちですら気にもとめないのに、なぜ何千マイルも離れた外国から八百長するためにやってくる人がいるのか?」と。

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