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あなたが観ている試合には“台本”があるかもしれない(中編)

text by デクラン・ヒル photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography , Masahiro Nagasawa

フィクサーに対し厳格な対応は取られていない

 ここで驚くべきことがある。読者が心の底からショックを受けるに違いない事実だ。これらの多くの八百長試合を仕組んだフィクサーが誰なのかは分かっているのだ。それでもなお、彼らは逮捕されていない。

 そのうちのひとりが、タン・シート・エンという名の男だ。シンガポール在住で、通称「ダン・タン」。イタリア当局は、トップチームの試合を含む国内での彼の活動について、何百ページにも及ぶ調査資料をまとめている。そして、ダン・タンの国際手配を要請している。ハンガリーとドイツ、フィンランドの警察当局も、彼以外にも、シンガポールやクアラルンプール、バンコク在住のフィクサーたちに事情聴取をしようとしている。

 ダン・タンの名前は、以前よりも知られるようになっている。オランダに拠点を置くユーロポール(欧州刑事警察機構)は今年2月、世界中のサッカーの試合で八百長が行われていたと発表。その数は680試合に上る。

 指摘されたのは、欧州チャンピオンズリーグやW杯予選、さらに欧州選手権など、世界的にも注目されるような試合だった。ユーロポールは、八百長で800万ユーロほどの金が動いているとも語った。加えて、八百長には、シンガポールが関連している可能性を示唆した。そこでクローズアップされたのが、ダン・タンらの存在だった。

 しかし厳格な対応はとられていない。インターポールは、彼らの逮捕には前向きではないし、フィクサーたちの母国の政府も彼らを逮捕することはないだろう。そうした国のサッカー協会は、立ち上がって「私たちは彼らを裁判にかけ、願わくは世界で最も人気のあるスポーツを脅威にさらす腐敗の波を止める」などと言うこともない。

 FIFAもまた、シンガポールに対し「世界最高レベルの警察当局によって、何百もの八百長試合を行ったと問われている人物があなたの国にいる。あなた方が彼らを逮捕し、裁判にかけるまでは、協会の試合への参加は認めない」とは言わないだろう。イギリスのフーリガンがヨーロッパ各地で暴動を起こしたときの対応と同じだ。要するに、彼らは何もしないのだ。

【後編へ続く】

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