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2015年の君たちは――。東京ヴェルディユース、花の92年組を追って:最終回 離れていても、近くにいる

「あいつ、人が必死こいてやってるときにいちゃつきやがって」

 試合は中央大が2-0で勝ち、1部残留に望みをつなぐ勝ち点3を稼いだ。すると彼女、「最近この人、かわいいとか全然言ってくれないんですよ」と、冗談めかして拗ねてみせた。

 度肝を抜かれたね。相馬は仲間内から変わり者と評されるが、やはり付き合う女の子もちょっと変わってると思った。ふつう初対面のおっさんにそんなこと言わないよ!

 そこから僕はなぜか懸命のフォローである。お嬢さん、あんたは男ってもんがわかってないよ。言葉は軽く扱っちゃいけない。特に彼はストライカーだから、タイミングをちゃんと見極めているんだ。だいたい、すぐにかわいいなんて言う男にろくなのはいないからね。覚えておきなさい。

 手間をかけさせるなよと相馬をにらむと、しれっとした顔をしてやがるんだ。あぁ、この顔かと思い当たった。ジュニア時代、練習前の準備当番に遅れてきて、「ドラマの再放送を見てた」と悪びれることなく言ったときの顔がこれだったんだ。「一人っ子でマイペースのマサカもだいぶ大人になっちゃって」と何人か言っていたが、本質的にはまったく変わってないぞ。

 その後、ちょっと君たち聞いてくれないかと、渋谷と山浦をつかまえた。「さっきの試合、途中で下げられてむくれてたくせに」、「あいつ、人が必死こいてやってるときにいちゃつきやがって」と3人で大笑いである。

 人は悲しいぐらいいろいろなことを忘れてしまうのだけど、いつかこんな晩秋の出来事を奇跡みたいに思い出すのだろうか。2010年の夏のように、一切の翳りがなく、輝きそのものであった日々の記憶を。誰にとっても一度きりしか訪れない短い季節を。そっと取りだして、遠くの空を見やるのかもしれない。

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