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【現地レポート】コソボサッカーの混沌。FIFAが加盟を認めていない国が歩む茨の道

発売中の『欧州フットボール批評special issue03』では、ジャーナリストの木村元彦氏が混沌としたコソボサッカーの現状を取材するべく、2年ぶりにプリシュティナを訪れてレポートしている。FIFAもUEFAも加入を認めていない国はどのような道を進んでいるのか? 一部抜粋して掲載する。

text by 木村元彦 photo by Kimura Yukihiko

閉ざされたままのW杯とEUROへの道

 車でセルビアからコソボに入って再びセルビアに戻ると、山間部メルダレの国境で奇妙な通過儀礼が行われる。陸続きのヨーロッパではボーダーには二国のイミグレーション(出入国審査所)が前後に連なっており、例えばA国からB国に入るときはA国側のイミグレで出国のスタンプをパスポートに押してもらい、次にB国側で入国を押される。混んでいなければ流れ作業のように順次進んでいく。

【現地レポート】コソボサッカーの混沌。FIFAが加盟を認めていない国が歩む茨の道
コソボからセルビアに入る際にパスポートに刻印される「ANULLE(取り消し、無効)」の文字【写真:Kimura Yukihiko】

 ところが、コソボから再びセルビアに入る際には、コソボの入国、出国スタンプの上にANULLE(取り消し、無効)とインクで被せられるのだ。セルビア側からするとコソボの独立は認めておらず、セルビア国内という位置付けなので「何が出入国じゃ、ボケ!」という意味の措置である。コソボ側が「はい、滞在お疲れ。次は外国やで」と送れば、「いや、国内移動や。これは無効ね」とセルビアが打ち消す。隣合わせのイミグレーションの距離は30mほどしか離れておらず、役人同士は結構仲が良い。いわば意地の張り合いだが、かように複雑なボーダーの事情を知らない旅行者はしばしばトラブルに巻き込まれる。

 6月22日、メルダレのセルビアのイミグレをパスしてコソボに入ろうとしたところで入国審査官に呼び止められた。「お前、アジア人だろ? 俺たちも困っているんだ。何とか助けてやってくれ」。見るとバックパッカーの韓国人女性が足止めされている。聞けば、アルバニアからコソボを抜け、セルビアに入ろうとしたら、「あなたは入国させられない」と言われて困窮しているという。

 このルートはセルビア政府が最も敏感になるのだ。原則としてセルビアはセルビア以外の国からのコソボへの越境を認めていない(セルビアがコントロールしていないイミグレからコソボという名のセルビアに入るのは不法入国というわけだ)のでスタンプを見つけられると旅行者は追い返されてしまうのだ。

 幸いJICA(国際協力機構)のネットワークが機能して一度コソボに戻ってさらにマケドニアを迂回してセルビアに入ってもらうことになった。メチャクチャ大回りで本当にくだらない国家間のメンツだ。

 現在コソボを独立国として承認しているのは国連加盟国193カ国のうち108カ国、いわば半数近くの国はまだ認めていない。ヨーロッパではセルビアはもちろん、ロシア、スペイン、ルーマニア、グルジア、キプロス、ボスニアなどは依然として独立に反対している。相変わらずややこしく矛盾を内包した地域である。

 そしてそのややこしさがサッカーシーンにも影響している。FIFAもUEFAもIOCもまだコソボの加盟を認めていないのである。W杯、欧州選手権、五輪への道は閉ざされたままで、応急処置のような形でアルバニア代表(コソボのマジョリティはアルバニア人)でのプレーが認められている。

 現在のコソボサッカー協会の会長であるファデル・ヴォクリはオシムがユーゴ代表監督時代に何度も招集したコソボ史上最高のストライカー(代表12試合6ゴール)である。現役時代のパイプを活かして頻繁にブラッターやプラティニにロビー活動を行っているが、その成果は芳しくはない。ちなみにIF(国際競技連盟)によっては温度差があり、すでにITTF(国際卓球連盟)やFIBA(国際バスケットボール連盟)、IJF(国際柔道連盟)はコソボの加盟を認めている。

 サッカーの場合、A代表はまだ国際試合に出場できないが、下の世代のクラブチームは参加を認められて旧ユーゴ時代から続く技術の高いサッカーで結果も残している。

 2013年にスウェーデンで行われたゴシアカップ(ワールドユースカップ)ではジャコバ(セルビア名ジャコビッツァ)のU-12のチームが優勝している。このときは首都プリシュティナの協会関係者も盛り上がった。FIFAと交渉しつつ、政治的な解決も待ってジュニア世代の育成をじっくりとやっていけば、国際大会の出場が認められる頃にはヨーロッパでも高いレベルで戦えるだろうとヴォクリも語っていた。

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