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テロ一掃し国民を一つに。“平和の象徴”としてのシリア代表。思想違えど同じ旗のためプレーする心は同じ

text by 舩木渉 photo by Wataru Funaki , Dan Orlowitz , Getty Images

サッカーをできるのが「普通」ではない

シリア 街
街にはバッシャール・アル・アサド大統領の写真が各所にあるが…【写真:Getty Images】

 一方でアサド大統領に忠誠を誓わぬ者もシリアには多くいる。独裁政権打倒を目指し武器を取ることを選択した若者を描いた『それでも僕は帰る ~シリア 若者が求め続けたふるさと~(原題:Return to Homs)』という映画をご存知だろうか。

 この作品の主人公はアブドゥル・バセット・アル・サルートという青年だ。彼はかつてシリアU-20代表に選ばれた経験もある、国内で将来を嘱望された優秀なGKだった。しかし、故郷ホムスを政権側の愚かな支配から救うため立ち上がる。

 当初は歌を用いて民衆の先頭に立ち抗議運動の象徴となったが、しだいに過激になり仲間たちに担ぎ上げられる形で武器をとった。現在はIS(Islamic State)に忠誠を誓い、行動をともにしているとされる(ドキュメンタリー映画で記録された後の動向に関する情報は少なく、何度も死地をくぐりぬけて生存しているとする説や、死亡説も存在する)。

 バセットはサッカー選手としてのキャリアを捨てざるをえなかった。(本意でなかったとしても)アサド政権に忠実な姿勢を示せば身の安全を保障され、今回の日本遠征にも帯同していたかもしれない。

 日々報じられているようにシリアは内戦状態にある。アサド政権側につくもの、政権打倒を目指しゲリラ活動を展開するもの、ISの構成員としてテロを主導するもの…国内ではあらゆる勢力が互いの利益のために戦っている。他にも上空からはアメリカやロシア、フランスなどのヨーロッパ諸国も迫り、世界中の様々な組織が絡んだ複雑な利害関係が生まれてしまった。いまや戦況を正確に語れる者は極めて少ないだろう。

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