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EURO2016 8年前

英国勢のEURO躍進の裏で…出遅れたスコットランド、「潔さの伝統」と仇敵イングランドとの宿命【東本貢司の眼識】

シリーズ:東本貢司の眼識 text by 東本貢司 photo by Getty Images

W杯出場権獲得も辞退!? スコットランド伝統の“潔さ”

アーチー・ゲミル
スコットランド代表史上最高のゴールを決めたアーチー・ゲミル【写真:Getty Images】

 例えばこんな逸話がある。第二次大戦後になって英国勢が初めて参戦した1950年のワールドカップ、その予選は英国4協会内リーグ戦の形で行われたが、FIFAは上位2チームに出場権を与えることとした。しかし、スコットランド協会は「優勝なくば出場にあたわず」と宣言。はたしてホームでイングランドに1-0で敗れて2位となったスコットランド(協会)は“潔く”辞退を決め、同本大会中は北米ツアーに出かけたという。

 ちなみに、4年後の1954年ワールドカップ予選もほぼ同じ経緯と結果に落ち着き、此度は「2位」の権利を行使したスコットランドだったが、22名のプレーヤー登録枠を無視してなんとわずか13名のチームを開催地スイスに派遣、“潔さ”に準じてみせたというからすごい。

 圧巻は1967年。前年、自国開催でワールドカップ初優勝を飾った世界チャンピオンの仇敵イングランドを、敵地ウェンブリーにて3-2で下して「名実ともに世界最強」を喧伝しつつ、長年の溜飲を下げたのである。

 この試合でアーチー・ゲミルが決めた一撃は、今も(少なくともスコットランドでは)ワールドカップ史上最高のスペクタクルゴールとして語り継がれている。哀しい、切ないまでのライバル意識、意地というべきか――。いや、だからこそ“勝利の中身”にとことんこだわる「潔さの伝統」と形容したくなってしまうのだ。

 とはいえ、そんなスコットランドも“海外の門”をたたくことにかけては英国圏でどこよりも早くかつ意慾的だったと、史実は伝えている。考えようによっては、そんなおおらかさと積極性(これは貿易商業の面でも歴史的によく知られている)で対イングランドのポイントを稼ぎ、同時に“他流試合”を数多くこなすことによって、イングランド戦を有利に戦える実力を蓄えようとしたのかもしれない。無論、一つの仮説ではあるが。

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