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「小さすぎる」偏見を覆したメルテンス。ペレ、マラドーナらの系譜、“ナノレベル”の要求に応える能力【西部の目】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

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メルテンスは、多くのスターたちと同様に偏見を覆した【写真:Getty Images】

 サッリ監督が導入したパスワークのサッカーは正確なボールコントロールが不可欠だ。正確に止める、蹴る技術がないと到底成立しない。例えば、普通のチームのサッカーがセンチメートル単位とするなら、ナポリはミリメートルである。単位が違う。だから普通のチームなら味方がマークされているので諦めるパスでも平気で通す。狭い地域もコンビネーションやドリブルで抜けられる。

 その緻密なプレースタイルの中で、メルテンスの技術と俊敏性が遺憾なく発揮された。トップのポジションから少し下りてパスを受け、さばいてもう一度裏へ抜ける。ドリブルで突破し、左右へ散らし、スルーパスを出し、シュートを打つ・・・。いわばナノレベルのプレーが要求される狭い地域だからこそ、メルテンスのサイズの小ささが武器になった。小さな選手のステップワークの変化や急激な加速に対して、歩幅の大きな長身選手はついていけない。タイミングが合わない、合わせきれない。これはマラドーナやメッシや他の小柄なアタッカーに共通するアドバンテージである。

 メルテンスはボールタッチのセンスが抜群だ。瞬間的にボールの最適な一点を触ることができる。GKが飛び出してきたらチップして外すこともできるし、加速しながら一番いい場所へボールを置くこともできる。さらにキック力がある。右足インサイドでカーブをかけたシュートは正確でスピードがあり、FKからもよくこのキックで得点する。速い弾道でクッと曲がる。

 ナポリで絶妙のコンビを組むインシーニェはメルテンスより身長が低い163cm。この2人はプレーぶりがよく似ていて、左からカットインしてファーサイドへ巻いていくシュートはそっくりだ。

 かつてマラドーナはジネディーヌ・ジダンを評して「もっと身長が低かったら史上最高の選手になれただろう」と言った。「小さくてプロは無理」とされたメルテンスは、多くのスターたちと同様にその偏見を覆した。

 本当はこう考えるべきなのだろう。「この選手は素晴らしい才能があるが、残念ながらプロでやるには大きすぎる」と。

(文:西部謙司)

【了】

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