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撃ち込まれた銃弾が応援の証。狂気のアルゼンチンサッカー、その熱を唯一の日本人プロ選手が語る【インタビュー】

text by カルロス矢吹 photo by Yabuki Carlos

アルゼンチンのサッカーは“戦争”

後藤航
「アルゼンチンのサッカーって“戦争”なんですよ」。後藤はこう話している【写真:カルロス矢吹】

「アルゼンチンには所属チームが無い選手が集まってリーグ戦をやるところがあるんですよ、午前中はそこで練習して、夜はレストランでアルバイトして。三ヶ月くらいそういう生活をした後にコルドバ州の地域リーグ、5部リーグと移った後、今のチームに移籍しました。

 地域リーグに在籍してた時、ブエノス・アイレスで書類の手続きとかしてたらスリに遭って荷物が全部盗まれて。携帯電話は残ってたんでクラブが連絡くれるまで二日間公園で寝泊まりしてました。もう心は毎日折れてましたよ、それが良かったんでしょうね。“こんなに悪い日は今日くらいだろう”そう思いながら生きていけたんで」

 プロリーグとはいえ、3部では生活が苦しいのではないか? そう尋ねると、後藤を首を横に振りながら答えた。

「アルゼンチンでサッカーをやってる子達って、貧しい家庭の子が多いんです。だからその子達をクラブに入れる以上、クラブは衣食住の面倒を見なきゃいけない。外国人である僕もそうですよ。3部ですけどウチのスタジアムって1万人以上入るし、試合によっては埋まるので、生活はそこまで苦しくはないですね。

 “組”みたいですよね、南米のサッカークラブって。だからアルゼンチンのサポーターも、クラブのために身体を張る選手を、気持ちの強い選手を応援するんです。アルゼンチンのサッカーって“戦争”なんですよ。

 去年ウチのクラブが降格しかけた時期に、会長の家に銃弾が撃ち込まれて。“死んでも残留しろよ”ってことなんですけど。練習場にもその感じで来るし。コパ・リベルタドーレスの決勝に自分のクラブが進んだら、チケットは日本円で30万円くらいかな、彼らは車を売ってチケット買うんですよ。翌日の仕事のことなんて考えてないんでしょうね。“サッカーが人生の全て”って人が本当に多いんで」

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