スポーツMBAが狙う「ポスト2020」。ビジネス人材育成で東京五輪後も商機拡大を

来年、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催される。前回の1964年大会からは比べものにならないほど巨大なイベントとなった「五輪」が終わった後も、そのレガシーをいかに活用してスポーツの盛り上がりを持続させていくか。その課題にビジネス面から取り組むための人材を育成するプロジェクトが早稲田大学で始まっている。(取材・文:舩木渉)

2019年06月11日(Tue)11時05分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images, Wataru Funaki
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「ポスト2020」のチャンスを逃さないために

東京オリンピック
東京オリンピック・パラリンピックはもう目前に迫っている【写真:Getty Images】

 今、これを読んでいる読者のあなたの勤務先が2020年東京オリンピック・パラリンピックのスポンサーになったとする。そしてある日、出社するなり上司から「オリンピックのスポンサーになったから、この権利を活用して利益をあげる方法、来週までに考えておいて」と指示される。

 こんな状況になって、すぐにいくつもアイディアが浮かんで、ビジネスとして成立させるためのプランを組むことができる人材は非常に限られているのではないか。プロスポーツクラブやメガスポーツイベントのスポンサーとしての権利を手にしても、実際はお金を出すだけになってしまい十分に活かしきれていないという事例はよく耳にする。

 もうすぐ日本には世界最大規模のスポーツイベントが立て続けにやってくる。今年は秋にラグビーワールドカップが開催され、来年2020年は東京オリンピック・パラリンピックで日本中が沸き立つことだろう。

 少し先の話にはなるが、日本は2023年のFIFA女子ワールドカップ開催地に立候補しており、札幌市が2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致に動いていることも明らかになっている。こういったメガスポーツイベントの開催には多額の出費がともなうわけだが、それによって生まれる収益も莫大な額になる。

 こういった千載一遇のチャンスを活かさない手はない。だが、日本にはスポーツビジネスの専門家が不足している。特に「ポスト2020」、つまり2020年東京オリンピック・パラリンピック後のスポーツ界を支えていく人材の確保は急務だ。

 そこで2017年に早稲田大学スポーツ学術院と早稲田ビジネススクールが共同で設立したのが、「早稲田大学スポーツMBA Essence」だ。「MBA」とは“Master of Business Administration”の略で、日本では「経営学修士」と訳される。その名の通り、大学院で経営学の修士過程を終了すると付与される学位のことだ。

 しかし、「早稲田大学スポーツMBA Essence」はあくまでノンディグリープログラムで、学位は授与されない。それでも日本で初めてのスポーツビジネスに特化したMBAプログラムであり、大学院に入学して1年あるいは2年かけて学位を取得するよりも気軽に受講できる側面もある。

多様なバックグラウンドを持つ受講生が参集

 そもそもこのプログラムは国際サッカー連盟(FIFA)がスイスにあるスポーツ教育機関CIES(The International Centre for Sports Studies=スポーツ研究国際センター)と提携して2000年に設立した「FIFAマスター」を参考に組まれている。スポーツに関する組織論や歴史、文化、哲学、法律、経営などの多様な分野を横断的に学ぶ半年間のプログラムに倣って、様々な講義が用意されているのだ。

「早稲田大学スポーツMBA Essence」でプログラムリーダーを務める早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授は「スポーツで生計を立てている人もいれば、スポーツを支援している企業の人もいれば、これから何かしようとしている人もいる。多様な人材に集まってほしい」と、3期目を迎える同プログラムに期待を寄せている。

 これまではある程度社会人経験を積んだ30代から50代の男女が、週に1度の夜7時から10時までの講義を受け、スポーツやそれを取り巻くものについて学び、それを持ち帰って自分の仕事に活用するというサイクルを思い描いていた。だが、実際に初めてみると受講者たちが互いの交流も深めながら緩やかなビジネスコミュニティとして機能する、意外な効果も現れ始めていると原田教授は語る。

「受講者には企業から派遣されている方も、自分でお金を出して来られている方もいます。そんな中で、スポーツMBAから、スポーツビジネスを舞台にしたBtoBマッチングが徐々に増えてきています。実は、これは当初の狙いではなかったんです。もともとは受講者に自社のビジネスにスポーツを生かしてほしいと思って始めています。今も修了生が月に1回勉強会を開催していて、同窓会みたいなものが継続されていますよ」

 スポーツを学ぶ場から発生したコミュニティやネットワークは、「ポスト2020」に向けて徐々に大きくなってきている。「みんなスポーツが大好きで、授業を受けるのは義務ではなく権利」というノンディグリーの環境だからこそ、受講者が自発的に動くようにもなる。

「早稲田大学スポーツMBA Essence」のウェブサイト上で公開されている、受講者からのフィードバックの中には「その道を極めた、普段接することのできない講師陣が、同じ目線で議論に応じて下さるのが本プログラムの神髄だと思う。また、業界や世代を超えた受講生との関わりは、私の世界を拡げてくれ、学ぶことの楽しさや素晴らしさを共有できたことは生涯の糧になると思う」のように充実ぶりを物語るものが数多く寄せられている。

「大きなイベントをやって終わりではなく、始まりに」

原田宗彦
早稲田大学スポーツ科学学術院の原田宗彦教授【写真:舩木渉】

 ある受講生は「受講生とも飲み会やスポーツ観戦などのオフ会も盛んで講義以外にも学習する場がたくさんありました。様々なバックグランドや年齢が集まった同じ意識を持つ仲間との出会いは、新鮮かつ刺激的で視野を広めていただきました。このプライスレスな出会いに感謝しています」と、講義から派生して生まれる新たなコミュニケーションの場としての付加価値について述べていた。

 昨年9月から今年3月にかけて開講された第2期では、初の海外研修も実施された。約1週間かけてスポーツビジネスの本場アメリカのニューヨークやワシントンで、バスケットボールやアイスホッケーの現場を視察。プロスポーツ界のみならずカレッジスポーツの分野でも、最先端の現場でどんなことが行なわれているのかを実際に自分の目で見るために、受講生の約半分にあたる15名が参加したという。

 今年9月に開講する第3期では、これまで通り「スポーツを取り巻く環境(文化・社会)を理解する基礎的な科目群」「ビジネス・マネジメントに関する専門的な科目群」「この2つの要素を理解したうえで履修する応用的な科目群」と3つの分野が用意され、最後にはグループで取り組むプロジェクトのプレゼンテーションを行う機会もある。

 序盤は近代スポーツの歴史やスポーツとインテグリティ(高潔性)、メディアについて学び、中盤で本格的なビジネスにおける人材・組織論やマーケティング、経営戦略などについて学ぶ。さらにスポーツ政策や、スポーツに関する法律、スポンサーシップなど多種多様な分野を網羅した上で、並行してグループプロジェクトも進めていく形になる。もちろん通常の講義の中でグループディスカッションの機会も多くあり、自発的に学びを深めていく場にもなるだろう。

 原田教授はこれまで2期を終えた段階で、受講生の中には企業のオリンピック・パラリンピック関連の仕事に従事する者もおり、その活躍が「東京オリンピック・パラリンピックに影響がないわけではないし、その影響力が弱いわけでもない」と語る。だが、本来「早稲田大学スポーツMBA Essence」が設立されたのは、2020年のメガスポーツイベントが終わった後の社会においてスポーツがどんな価値を提供し、存在感を発揮するための人材を育成するのが目的だった。

「真の狙いは『ポスト2020』です。大きなイベントをやって終わりかというと、そうではなく、始まりだろうと」

 まさに今年以降は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック後に活躍するための人材がこれまで以上に求められる。「早稲田大学スポーツMBA Essence」の3期目は今年9月に開講予定。今年度の受講生は6月末まで募集している。

詳細および申し込みはこちら
http://www.waseda.jp/prj-sportmba/

(取材・文:舩木渉)

【了】

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