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これぞ南米の熱狂。20分遅れのチリ対コロンビアは“本物”のスペクタクル【コパ・アメリカ】

text by 編集部 photo by Wataru Funaki

アレーナ・コリンチャンス
アレーナ・コリンチャンスの最寄駅を埋め尽くすファンたち【写真:舩木渉】

 決勝トーナメントに入って、コパ・アメリカ2019(南米選手権)の雰囲気が変わった。現地28日に行われた準々決勝のチリ対コロンビアは、現時点で今大会のベストゲームにふさわしい大熱戦となった。

 サンパウロの街の様子は普段と変わりない。歩いていると時折、黄色か赤のウェアをまとったサポーターに遭遇するくらいだった。

 しかし、ひとたび黄色と赤が集団になると、雰囲気は一変する。サンパウロ中心部に近いルス駅からは、試合会場となるアレーナ・コリンチャンスへの臨時直通列車が運行されていた。乗車を待つホームはコロンビアとチリ、両国のサポーターや地元のファンで埋め尽くされ、ところどころから大声でチャントを歌う声が響く。時に応援合戦のようになる場面もあった。

 そして列車が到着すると、車内はすし詰め状態に。熱気ムンムンの中でも歌声はやまない。

 スタジアム内も混沌としていた。4万1692人が詰めかけたスタンドでは、明確にエリア分けがされておらず、コロンビアとチリのサポーター同士が隣り合って混ざり合い、黄色と赤のまだら模様に。試合中もチャントがいたるところから自然発生的に沸き起こる。

 両国とも全力大合唱の国歌斉唱が終わる頃には、ピッチ上空は人の熱気によるものか、白く霞みがかっていた。

 試合もとにかく熱い。お互いにグループリーグで見せていた以上の強度でぶつかり合い、ピッチの各所でプライドとプライドがぶつかり合う。相手のミスには大ブーイング。2度にわたってチリのゴールが取り消された、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の助言による判定に対して、アルゼンチン人の主審にはチリサポーターから割れんばかりのブーイングが降り注いだ。

 プレーのクオリティも、選手たちやスタンドのサポーターから溢れ出すパッションも、想像をはるかに超える。1つひとつのプレーに対して歓声やブーイングが起こり、そこらじゅうから口笛や叫び声が聞こえてくる。だが、チャンスを逃した際の「ウー!」という低い驚きや失望のリアクションは黄色も赤も関係なく、しっかり揃う。

 結局、90分間で決着がつかず0-0のままPK戦に突入する。今大会は準々決勝まで延長戦がないレギュレーションになっているためだ。ここで最も大きなブーイングが飛んだのは、コロンビアのDFジェリー・ミナに対してだった。

 現在エバートンに在籍しプレミアリーグで活躍するミナは、かつてブラジルの強豪パルメイラスでプレーしていた。チリ戦の会場となったアレーナ・コリンチャンスは、宿敵クラブであるコリンチャンスの本拠地のため、ひときわ大きなブーイングが沸き起こったのだった。

 しかし、巨漢のセンターバックはゴール前での自らのように、PKでも一切動じない。難しいコースにしっかり決めると、スタンドを挑発するようにすね当てを取ってアピールしながら、ダンスまで踊って見せた。

 試合前から試合後まで、「これぞ南米」と言いたくなる熱狂の渦がそこにはあった。チリ代表のチームバスが交通渋滞に巻き込まれてスタジアム入りに遅れが生じ、試合開始も20分遅れることになったが、情熱を解き放ちに来たサポーターたちにも、ピッチで牙をむいた選手たちにも一切関係なかった。

 “本物”の南米の凄まじさを体感できる、真のコパ・アメリカは決勝トーナメントに入ってからだったのかもしれない。準決勝では開催国ブラジルと、最大のライバルであるアルゼンチンが激突する。チリ対コロンビアを超える熱狂に包まれるであろう、宿命のライバル同士の対決に期待は高まるばかりだ。

(取材・文:舩木渉【ブラジル】)

【了】

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