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リバプールはつまずく危険度が高くなる!? クロップの「長期的な展望」に補強は必要ないのか【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

リバプールは昨季、UEFAチャンピオンズリーグ制覇を達成。一方で惜しくも昨季は優勝を逃したプレミアリーグの優勝を今季は求められているに違いない。しかし、移籍市場での大きな動きは見られず。プレミア開幕までの残された時間の中で、リバプールは「投資」を行う必要性はあるのだろうか。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

名将は勝負にドライであれ

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昨季はUEFAチャンピオンズリーグを制覇したリバプールのユルゲン・クロップ監督【写真:Getty Images】

「サポーターの皆さんは、プレミアリーグの優勝を心待ちにしていらっしゃいますね。新シーズンのわれわれは、その期待に応えるため闘います」

 オーナーのジョン・W・ヘンリー氏が公言した。2019/20シーズンのリバプールは、プレミアリーグに重心を置くことになった。

 チャンピオンズリーグ優勝の事実が示すように、昨シーズンのリバプールはすばらしいチームだった。最盛期と表現して差し支えない。ただ、ここで満足すると落ちるときは早い。現状維持は停滞につながる。

 マンチェスター・ユナイテッドに18回のリーグ優勝をもたらしたサー・アレックス・ファーガソンも、補強費が十分に用意されているときは積極的に、なおかつ無慈悲な補強を図っている。クリスティアーノ・ロナウドやカルロス・テベス、ロビン・ファン・ペルシーを獲得し、天狗になりやすいウェイン・ルーニーの尻を叩いた。

 V9という不滅の金字塔を築いた当時の読売ジャイアンツでは、川上哲治監督(当時)が正捕手の森昌彦(現・祇晶。西武ライオンズ、横浜ベイスターズなどの監督も歴任)を刺激するため、大橋勲や槌田誠といった六大学のスターを次々に獲得している。名将は、勝負にドライでやけにシビアだ。当然、リバプールも最低限の補強を推し進めなくてはならない。

左SBはミルナーで事足りる

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ジェームズ・ミルナーは本職の中盤に加えてサイドバックでもプレーする【写真:Getty Images】

 喫緊の課題は左サイドバックと思われていた。アルベルト・モレノがビジャレアルに移籍したため、実質アンドリュー・ロバートソンひとり。ただ、ユルゲン・クロップ監督も強化担当のマイケル・エドワーズも、市場で動いていない。どうやら、ジェイムズ・ミルナーで事足りると考えているようだ。

「クロップ監督が興味津々」とも伝えられたジュニオル・フィルポ(ベティス)は、5000万ユーロ(約60億円)に設定された移籍金が障害だ。プレミアリーグにフィットするまで時間がかかり、ロバートソン、ミルナーに次ぐ三番手になりかねない、すなわちベンチにも入れないリスクもある選手の代価としては非常識だ。

 この先、左サイドバックを獲得するとしても、マネーゲームにはならないジャマール・ルイス(ノリッジ)が有力か。あるいは下部組織のアダム・ルイス、ヤセル・ラローシを抜擢するプランも考えられる。いずれにせよ、喫緊の課題ではなかった。

 もともと守備陣は粒が揃っている。GKはアリソン、控えにシモン・ミニョレ。右サイドバックはトレント・アレクサンダー=アーノルドとジョー・ゴメスを擁し、センターバックもフィルジル・ファン・ダイク、ジョエル・マティプ、前述したゴメスに加え、オランダのズヴォレから17歳のゼップ・バン・デン・バーグがやって来た。クロップ監督が「近未来のDFリーダー」と絶賛する逸材で、オランダ人の先輩であるファン・ダイクのもと、トップチームに帯同して英才教育を施す予定だ。

 質量ともに及第点だ。エージェントがイタリアで奔走するデヤン・ロブレン、インターナショナル・チャンピオンズカップで膝に重傷を負ったナサニエル・クラインを除外しても、長いシーズンをやり繰りできる陣容である。

豊富な人材が揃う中盤、一方で前線は…

 中盤のタレントも申し分ない。アレックス・オックスレイド=チェンバレンが完全復活。「オックスが開幕から使えるなんてね」と、クロップ監督も相好を崩していた。さらにジョルジニオ・ワイナルドゥム、ナビ・ケイタ、ファビーニョ、ジョーダン・ヘンダーソン、ジェームズ・ミルナーといった既存戦力に不安はなく、近年は負傷に悩まされているアダム・ララーナも目の色が変わった。夏休みを早めに切り上げ、フィジカル強化に取りくんでいる。

 しかも今シーズン、クロップ監督はララーナをアンカーで起用する方針だ。つなげるララーナが中盤の深めに位置すると、リバプールのビルドアップはよりスムーズになるだろう。このコンバートは、何通りものローテーションを可能とする注目の人選だ。2シーズン目を迎えたケイタ、ファビーニョはよりフィットするに違いない。オックスレイド=チェンバレンとララーナが戻ってきた。補強の緊急性はまったくない。

 こうした事情を考慮し、上層部とクロップ監督は守備陣と中盤にテコを入れる必要はないと判断したようだ。しかし、問題は最前線だ。サディオ・マネ、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノの負担を減らさなくてはならない。

 マネとサラーはアフリカ選手権の、フィルミーノはコパ・アメリカ(南米選手権)の日程を踏まえ、ユルゲン・クロップ監督はアメリカツアーのリストに含めなかった。彼らには休息が必要だからだ。しかし、フィルミーノとサラーは7月29日に合流し、マネも8月5日には戻ってくる予定だ。疲れがとれているとは思えない。クロップ監督も、フロント3のコンディションに関しては明言を避けている。

適度な投資は許容範囲だ

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19歳のリアン・ブリュースターは怪我のため、昨季は公式戦出場がなかった【写真:Getty Images】

 スイス代表として出場したヨーロッパ・ネーションズリーグでふくらはぎを負傷し、長期の戦線離脱を危惧されていたジェルダン・シャキリが回復したとはいえ、残されたカードはリアン・ブリュースターとディボック・オリギ、そしてフラムから獲得したハーヴェイ・エリオット。前線のクオリティ不足は明らかだ。

 ヘンリー・オーナーは「オリギの出場機会が増えるのでは」と語っていたが、ベルギー代表歴を持つアタッカーは継続性に欠ける。下部組織出身のブリュースターには地元の大きな期待がかかるものの、首脳陣の優先順位ではオリギを上まわっていない。エリオットは16歳。今シーズンは国内のカップ戦で腕試しだ。即戦力ではない。したがってフロント3がコンディション調整に戸惑った場合、リバプールはつまずく危険度が高くなる。それでも移籍市場を静観したままだ。

「長期的な展望に基づいてチームを創り、ゲームプランに適応できそうもないタイプは、有名無名にかかわらず獲得しない。市場にクレイジーマネーを投下するなんて、バカげているよ」

 クロップ監督のコメントを真に受ければ、今夏の移籍はバン・デン・バーグとエリオットだけということか。完成度に磨きをかけるのなら、現有勢力で闘う選択肢もないわけではない。移籍金が高騰する一方の市場に背を向け、先行投資に重きを置くリバプールのスタンスは支持する。ゴメス、ロバートソン、アレクサンダー=アーノルドを育てた実績も高く評価していいだろう。

 しかし、適度な投資は許容範囲だ。フロント3を除くFWの質に不安があるのだから、せめてひとりだけでも即戦力を補強すべきだ。リバプールの経済力とブランドイメージ、クロップ監督の求心力をもってすれば、Aクラスのアタッカーを獲得できるだろう。イングランドの移籍市場は、8月8日17時(現地時間)に終了する。少し、急がなくては――。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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