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リバプールが見せた、飽くなき勝利への渇望。不安を払拭するオリギの活躍と、主将が見せた表情とは?

プレミアリーグ第1節、リバプール対ノリッジが10日に行われ、4-1でリバプールが勝利した。短いオフを過ごしたリバプールの選手たちだが、その不安を消し去るように4得点をあげて、昇格組のノリッジを下した。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

試合は前半で大勢が決まる

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リバプールの主将を務めるジョーダン・ヘンダーソン【写真:Getty Images】

 鎌倉時代に記された平家物語には「盛者必衰の理をあらわす」という一説が残されている。栄華を極めたチームにやがて衰退が訪れるのはサッカーでも同じ。マンチェスター・ユナイテッドやACミランはかつての栄光から遠ざかり続けている。

 しかし、一昨季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出に続いて、昨季は悲願のCL制覇を果たしたリバプールにその言葉は当てはまらないようだ。この試合を見る限り、勝利への渇望はさらに増しているようにすら見えた。

 昨季、リバプールはマンチェスター・シティにわずか勝ち点1及ばずにプレミアリーグを2位で終え、シティが国内3冠を独占。プレミアリーグの前哨戦として行われるコミュニティシールドではシティと対戦。1対1で90分を終えた試合は、PK戦の末にシティが勝利している。

 リバプールは開幕戦で、昇格組のノリッジと対戦。ユルゲン・クロップ監督がピッチに送り込んだのは、GKアリソン、最終ラインは右からトレント・アレクサンダー=アーノルド、ジョー・ゴメス、フィルジル・ファン・ダイク、アンドリュー・ロバートソンで、中盤は右からジョーダン・ヘンダーソン、ファビーニョ、ジョルジニオ・ワイナルドゥムで前線にモハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、ディボック・オリギ。中4日での連戦となったが、クロップはコミュニティシールドと同じ11人をピッチに送り込んだ。

 試合は7分、ロバートソンからボールを受けたオリギが縦にボールを運ぶと、左足クロスをあげる。するとそれをクリアしようと、グラント・ヘンリーが足を出すが、それがそのままゴール。リバプールが先制に成功した。

 すると、19分にサラー、28分にCKからファン・ダイクがゴールを決め、3対0に。試合はここで大勢が決まったように思えた。

鉄板通りのリバプールの戦い

 この日のリバプールの狙いはシンプルで、十八番の高い位置からのプレッシングで相手に圧力をかけつつ、ボールを奪えばシンプルに敵陣に侵入。相手の両SBが高い位置をとっていたため、オリギやサラーはその裏を狙うことで、先制点と2点目は生まれている。

 しかし、リバプールはアクシデントに襲われる。アリソンはロングポールを蹴った際に軸足を滑らせて負傷。今季から1番をつける絶対的守護神はスタッフに肩を借りながら下がり、昨季までアリソンが着けていた13番を背負うアドリアンと交代した。

 ウェストハムを契約満了で退団したアドリアンは5日にリバプールに加入したばかり。予想以上に早い初出場となったが、危なげないプレーを披露した。

 その後、41分にオリギのゴールでスコアを4対0に。昨季よりも守備面での改善が見られたオリギだが、この得点シーンでは相手DFの背後からうまくボールのコースへと侵入し、フリーの状態でボールに頭で合わせた。

 後半のリバプールは、前半の4得点を忘れたかのようにノリッジに襲い掛かり、シュートを浴びせ続けた。シュートを外して悔しがるヘンダーソンの表情は、とても4-0のそれではなかった。

 試合はノリッジが1点を返して4-1でリバプールが勝利。しかし、昇格組のノリッジも、今季のプレミアリーグでの戦いに自信がつくような、勇敢な戦いを見せた。

昇格組ノリッジの勇敢な戦い

 ノリッジ・シティは4季ぶりにプレミアに帰還。チャンピオンシップ(2部)を戦った昨季は1勝3敗2分と開幕スタートこそつまずいたものの、結果的には勝ち点94で優勝を果たした。

 就任3季目となるドイツ人のダニエル・ファルケ監督は、かつてドルトムントのセカンドチームを指揮。選手として目立った活躍はなく、茶髪に髭という風貌をした42歳の指揮官は、どことなくクロップを髣髴とさせる。さらに、ノリッジの戦い方は、かつてのドルトムントと酷似していた。

 クロップに率いられたかつてのドルトムントと同じく、4-2-3-1の布陣で相手陣内から激しくプレッシングをかけていく。およそ10年前、ドイツで「ゲーゲン・プレッシング」と呼ばれたカウンターサッカーを、イングランドのクラブへと持ち込んだ。

 ノリッジは自陣に引きこもることなく、前からプレッシャーをかけ、ボールを奪うと直線的にゴールを目指す。10分、15分、22分、26分のシュートは、いずれも得点の匂いがするものだった。

 昨季、チャンピオンシップで29ゴールをあげたプッキが、この試合で何度も何度も繰り返したDF裏への動きが64分に報われる。ブエンディーアのスルーパスに反応すると、右足で放ったシュートは、GKアドリアンの右腕をかすめて、ゴール隅へと吸い込まれた。

 プロである以上、勝利が最優先事項になるのは間違いない。しかし、それが必ずしも目先の試合での勝利であるとは限らない。ノリッジはそう感じさせるに足る勇敢な戦いぶりを、昨季の欧州チャンピオンを相手にやりきった。

アリソンの負傷

 途中交代したアリソンはふくらはぎを痛めたようだ。14日にリバプールは、チェルシーとUEFAスーパーカップで対戦するが、「水曜日、彼はプレーしないだろう」とクロップ監督は試合後にアリソンの欠場を明言している。

 リバプールは2017/18、18/19シーズンと、2季連続でUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝に進出。さらに18年夏はワールドカップ、19年夏はコパ・アメリカ2019(南米選手権)にアフリカネーションズカップが開催され、主力選手の多くは満足のいく休息がとれていない。

 とりわけ3トップのコンディションは不安視される。ロベルト・フィルミーノとモハメド・サラーは約3週間のオフを経てチームに合流し、31日のリヨン戦に30分出場したのみ。サディオ・マネに至っては、わずか2週間のオフを経て8月5日の夕方にメルウッドに帰ってきたが、翌日はチームがオフだったために練習に合流したのは開幕戦の2日前だった。

 昨季のプレミアリーグ最終節からリバプールが戦ったCL決勝の間が3週間だったことからも、そのオフの短さがわかるだろう。当然、開幕戦の3選手のコンディションは整っていなかった。フィルミーノと同じくブラジル代表としてプレーしたアリソンの負傷は、チームに不安をもたらしたに違いない。

 それでも、アドリアンは危なげないプレーを披露し、オリギはゴールを決めた。前線にはさらに、アレックス・オックスレイド=チェンバレンとジェイダン・シャキリに加えて、16歳のハーヴェイ・エリオットと19歳のリアン・ブリュースターも必要とされるときがくるだろう。

 リバプールは8月に6試合が組み込まれており、さらにはCLに2つの国内カップ戦が控えている。チームは主力選手のコンディションと控え選手のクオリティを、どこまであげることができるのだろうか。

(文:加藤健一)

【了】

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