ありがとう、コシエルニー。謀反、裏切り…複雑な心境も、アーセナルの偉大な主将に感謝を

今夏のアーセナルで、一人のレジェンドが思わぬ形でチームを去った。チームの精神的支柱であり、主将でもあったローラン・コシエルニーだ。契約が残っていたにもかかわらず、プレシーズンマッチの帯同を拒否するという形で強引に意思表示をし、退団に至った。この物別れはショッキングな出来事であり、多くのアーセナルファンが心を痛めたはずだ。ただどんな別れ方をしたとはいえ、彼が残した功績が色あせることはないのもまた事実だ。偉大なキャプテンがアーセナルで築いたキャリアを振り返る。(文:内藤秀明)

2019年08月17日(Sat)10時20分配信

text by 内藤秀明 photo Getty Images
Tags: , , , ,

謎のフランス人DF「Koscielny」

0817koscielny_getty2
アーセナルで主将を務めたローラン・コシエルニー【写真:Getty Images】

 2010年の夏、当時のアーセナルの最終ラインには、現ヴィッセル神戸のトーマス・フェルメーレンが中心選手として君臨していたが、いかんせん怪我が多く、即戦力となるCBの加入が求められていた。

 そんな状況で当時の監督だったアーセン・ヴェンゲルはリーグ・アンのロリアンから、突然、無名のフランス人CBを約110万ポンド(現在のレートで約1億4000万円)で獲得した。ビッククラブが熾烈な争奪戦を繰り広げたわけでも、年代別フランス代表に選ばれていたわけでもない。加入が決まった当初は「Koscielny」の読み方さえわからなかったほどだ。

 知名度が低いこともあり、当初はフランス人DFに対して懐疑的な声が少なくなかった。ただそんな周囲の声をコシエルニーは自らの活躍で打ち消していく。

 加入1年目の序盤戦こそ、プレミア独特の激しさやアーセナル特有のチームスタイルに馴染めず苦戦したが、持ち前のスピード、判断力、カバーリング能力を活かし徐々に主力として定着し始める。

 最終的にチームのCBの中で最も多いリーグ戦30試合に出場し、デビューシーズンにしてレギュラーに定着した。プレミアリーグのスピード感は慣れるまで時間がかかることを考えれば、この定着スピードの早さは賞賛されてしかるべきだ。

 さて、その後の長いシーズン、彼の活躍っぷりを語りだせばキリがないほどだ。彼の相方はコロコロと変わり続けたが、コシエルニーだけは負傷離脱しない限り、常にスターティングメンバーに名を連ねた。そして前がかりな攻撃的なサッカーを志向するチームにおいて孤軍奮闘し、ゴールを守り続けたのだ。

 彼がいなければ、アーセナルの守備はさらに崩壊していたに違いない。

コシエルニーの転機

0817koscielny_getty
コシエルニーは2018年、アキレス腱断裂の大怪我を負った【写真:Getty Images】

 絶対的な存在だったコシエルニーにとって、一つの転機となる出来事が、2年前に起こった。そう選手生命を脅かすほどの大けがを負ってしまったのだ。

 17/18シーズンのヨーロッパリーグ準決勝アトレティコ・マドリー戦、前半12分に負傷し、涙を流しながら担架でピッチから運び出されてしまう。その際の彼の表情は多くのアーセナルファンにとって、苦しく、忘れられない映像になった。頼れるキャプテンが見たことないほどの苦悶の表情を浮かべていたのだ。ただ事ではないことが伝わってきた。

 診断の結果、アキレス腱が断裂していることが判明。長期の離脱が強いられることになる。SNSでは多くのファンによる一日も早い完治を願う声が飛び交った。

 この負傷はファンにとってもショックだったが、本人はそれ以上に辛い気持になったはずだ。30歳を超えての大けがなので、トップパフォーマンスに戻せるかの不安もあっただろうし、なによりロシア開催ワールドカップの欠場が決定してしまった。

 怪我さえなければ、コシエルニーはロシアを最後に代表を勇退する予定だったのだが、現実は残酷だ。彼は代表キャリアを綺麗に幕引きする機会を失ってしまったのだ。

 ただコシエルニーは利他的だった。自分が一番辛い状況にも関わらず、懸命なリハビリに励みながら、ワールドカップ直前に、代表チームのメンバー一人一人に向けて激励の手紙を書いた。若手にはアドバイスを、主力選手には信頼を込めたメッセージだったそうだ。

 その手紙の効果があったかどうかはわからないが、フランス代表は見事優勝を果たした。

アーセナルのラストシーズン

 ワールドカップも終わり、2018/19シーズンのプレミアリーグが開幕する。アーセナルはシティとチェルシーを相手に2連敗スタートだったが、その後公式戦で11連勝をおさめる。序盤戦は好調だったといえるだろう。

 そんなシーズンの12月にコシエルニーは帰ってきた。さすがにキャリア終盤の長期離脱ということもあり、スピード不足がより顕著になったように感じる。それでもチームの中では安定感があること変わりはなかった。最終的に昨シーズンはリーグ戦に17試合に出場し、チームのヨーロッパリーグ決勝進出に貢献した。

 移籍市場がオープンする。シュコドラン・ムスタフィが調子を落とし、戦力としてのカウントが難しいこともあり、33歳のCBはスタメンの頭数に入っていたはずだ。キャリアが下り坂なのは承知だろうが、コシエルニーにすがるような気持ちを抱いていたファンもいただろう。

 にもかかわらず、契約を一年残した状態で強引に退団。もちろんコシエルニーとしてはかねてより祖国への復帰を希望していたことはわかるが、契約は契約だ。しかもワールドカップの一件などから、利他的と信じてやまなかったキャプテンの謀反だ。正直に言えば残念どころか、裏切られたような気持ちすらある。

 それでもアーセナルの、一向に即戦力の補強が進まない最終ラインを、長年支えてくれたことも確かだ。だからこそすっきりしないかもしれないが感謝を込めて最後に言いたい。これまでありがとう、ローラン・コシエルニー。

(文:内藤秀明)

【了】

新着記事

↑top